働き続けたい高齢社員が知らない
在職老齢年金制度の落とし穴
「人材確保のため、厚生労働省は在職老齢年金制度を見直ししようとしていますが、私はこの制度があるから会社に残れているんです」と嘆くのは、通信会社勤務の65歳、馬淵恒夫さん(仮名)です。
在職老齢年金制度とは、働きながら厚生年金を65歳から受給する人が、月収と厚生年金が50万円を超えると、上回った分の半額の年金給付額が減額される制度です。
60歳の定年後も会社で働き続けることができた馬淵さんですが、65歳を迎えて在職老齢年金制度の適用で年金額が減り、収入が減るため、さすがに将来が不安になり、「少し給与を上げてくれないか」と交渉したところ、上司がカチンときたようです。上司からこんなことを言われてしまい、ショックを受けました。
「月収30万円以下で新入社員より安いし、1年ごとの更新だから、やむなく定年後も残ってもらった。あなたは威圧感があって仕事を頼みづらい。後輩には仕事をちゃんと教えないし、自分が居残ることだけに必死だし……。もし高い給与を支払い続けないといけないなら、辞めてもらう。65歳まで働けただけでもありがたいと思ってほしい」
馬淵さんのような例は増えています。私の周りでは定年後も引き留められて働けている人はわずかです。それどころか、赤字でもないのに早期退職募集をする企業が増えています。
2004年について見ると、1月から11月までの間に早期退職募集をした企業は前年同期の1.5倍、そのうち6割が黒字企業です。30歳以上を対象にしている企業もあり、対象人数も前年同期の3倍で、3年ぶりに1万人を超えそうな勢いです。
馬淵さんの会社も55歳以上の早期退職者を募集し始めたばかりで、リストラが進んでいます。不採算部門を減らし、コスト削減を徹底しています。そんな中、馬淵さんは「自分は選ばれた人なんだ」と思い込んでいました。
2025年度からは、65歳までは希望すれば全員を雇用することが義務化されます(高年齢者雇用安定法改正)。さらに65歳以上の希望者にも、雇用機会の確保が努力義務化されます。しかし、企業の実態は早期退職者を募集するくらいなのだから、そう簡単に高齢者が働き続けられるわけありません。おそらく、これからどんどん高齢者の仕事は減るのではないでしょうか。