共同通信社が2022年8月15日に配信した、「生稲晃子参院議員が靖国神社を参拝した」との誤報の問題は、水谷亨社長が外務省に謝罪する事態に発展した。誤報の端緒は、ライバルの時事通信社が共有した情報だった。なぜ誤りを見過ごしたのか。ダイヤモンド編集部が独自入手した内部資料や記者らの証言から分析する。(ダイヤモンド編集部 猪股修平)
時事通信の報告を鵜呑みに報道
裏付け作業を怠ったツケ
誤報に至るまでの顛末を、共同通信社の内部資料に基づき整理すると、次のようになる。
2022年8月15日、靖国神社で共同、時事通信、NHKの記者がLINEグループを作成。参拝した議員を確認次第、各社の記者はグループチャットに情報を共有した。
この時、各記者の配置は到着殿が時事、参拝殿が共同、拝殿前がNHKだった。
午前10時8分、時事の記者が「1007稲田朋美、生稲議員入りました」とLINEに共有する。目視による情報とみられるが、この記者が既に時事を退職しているため、何を根拠に生稲氏と判断したかは今も分かっていない。
この情報を基に、共同の記者が「15日午前、靖国参拝を確認できたメンバー」として、生稲氏の名前を入れたメモを自社政治部内で共有した。
午後6時48分、共同は番外で「自民・生稲氏ら20人超が靖国神社参拝」を加盟社に配信する。
番外とは、「この後、このような記事が出ます」と加盟社に知らせる予告のようなもので、主に締め切りが迫る夕方の時間帯に配信される。
そして午後8時15分、561文字の政治面向け記事を加盟社に配信してしまった。タイトルは「2閣僚が靖国参拝 中韓反発、動向見極め 岸田政権中枢は見送り」。
ここまで、誰も、生稲氏が参拝していなかった事実に気付かなかった。
この顛末について、共同の内部資料は以下のように総括している。
「当時、靖国神社の現場にいた記者や官邸担当記者は共有された情報について本人確認を含めた確認作業を実施したかどうかについて記録や記憶がありません。
正確な報道のために情報を裏付ける作業や、それを現場で指示する作業が欠けていたと推察せざるを得ません。
政治部デスクもそうした取材経過を十分に確認しなかったとみられます」
共同の取材体制に瑕疵があったのは間違いない。では、どうすれば誤報は防げたのか。
共同関係者によれば「誤報を防ぐチャンスは何度かあった」という。
次ページでは、「靖国誤報問題」で見えた課題を関係者の証言も踏まえて明らかにする。そこからは、時事が誤報に至らなかった経緯、共同の誤報がこれで終わらないことを示唆する「ある問題」が分かった。