東京ディズニーに児童養護施設の子を招待、ひとりの子どもの行動に胸が締め付けられる…写真はイメージです Photo:JIJI

東京ディズニーリゾートに57歳で入社し、65歳で退職するまで、私がすごした8年間をお伝えしよう。ゲストとの感動的な触れ合いもあったし、上司からの指示に疑問や不満を抱いたこともある。楽しいこと、ハッピーなことばかりの仕事などない。それはほかのすべての仕事と同様、ディズニーキャストだってそうなのである。
※本稿は笠原一郎『ディズニーキャストざわざわ日記』(三五館シンシャ、2022年2月1日発行)の一部を抜粋・編集したものです

某月某日 ボランティア
ある少年との交流

 会社員時代にも、東京ディズニーランドへの思い出がある。キリンビールでは、社員が持ち寄った本やCDを社内で販売し、その収益金をもとに児童養護施設の子どもたちを東京ディズニーランドに招待するというチャリティー活動を実施していた。そして、招待した子どもたちは、社員ボランティアたちが同伴してもてなすことになっていた。

「ハロー!ミッキー」と呼ばれるこの活動は、楽しんでボランティア活動ができると好評で、積極的に参加する社員も多かった。

 私が「ハロー!ミッキー」に初めて参加したときのことである。事前に、当日ペアになる施設の子どものプロフィールをもらうのだが、そこには中学生の男の子で浜崎あゆみが大好きと記載されていた。

 私は話題作りの一環としてレンタルビデオ店で浜崎あゆみのCDを借りて聴き込み、準備怠りなく予習をして当日に臨んだのである。

 初対面の男の子は華奢な体つきの、シャイで口数の少ない少年だった。初対面の大人に緊張しているであろう彼を解きほぐそうと思い、私はさっそく話しかけた。

「浜崎あゆみが好きなんだって?」

「……はい」

「どんな歌が好きなの?」

「……とくに」

「おじさんは『M』が好きだよ」

「M」は当時流行していた、「別れの道を選ぶ2人」を歌い上げた浜崎あゆみのヒット曲である。私の予習範囲であった。

「……」

「おじさんも今よく聴いているんだ。彼女の歌詞が染みてくるよね」

「……はぁ」