今、資本市場の荒波に揺れるセブン&アイ・ホールディングス。10月9日にカナダのコンビニ大手アリマンタシォン・クシュタール(以下、ACT)から7兆円規模の買収提案を受けた同社は、翌10日にイトーヨーカ堂などの小売り事業の分離と株式の一部売却を発表し、資本効率を上げる対抗策を打ち出しました。しかし、注目度の高い”稼ぎ頭”のコンビニ部門にも陰りが見え始めています。次なる稼ぎ方を模索するセブン、そして競合のファミリーマートの大胆な戦略転換を例に、国内市場での戦い方のヒントを探ります。(グロービス ファカルティ・グループ・オフィス テクノベートFGナレッジリーダー 八尾麻理)
セブン&アイに買収提案
コンビニ業界に激震
セブン-イレブン(以下、セブン)が豊洲にフランチャイズ1号店となるコンビニエンスストアを開業してから、今年で50周年を迎えました。コンビニ業界自体が巨大化し、今では全国のコンビニ店舗数は5万5000店を超え、年間売上高は11兆円超の規模を誇る一大産業となっています(日本フランチャイズチェーン協会調べ、24年3月時点)。
コンビニ業界はなぜ、これほどの成長を遂げることができたのでしょうか。
それは、単なる小売りにとどまることなく、宅配便の取扱いや公共料金の支払い、ATMの設置など、ワンストップでさまざまなサービスが受けられる町の拠点として発展し、人々の胃袋を満たす“冷蔵庫”としても常に新しいものを提案し続けてきたことにあるといえそうです。
しかしながら、少子高齢化の波は着実に押し寄せ、ここ数年の国内店舗数は横ばいが続いています。コロナ禍をきっかけに、24時間営業の看板を下ろす店舗も出てきました。
国内市場がこのような時期に、セブンの好業績を支えたのは、ほかでもない、21年に買収した米国コンビニ大手スピードウェイでした。しかも、米国ではよくある「コンビニ併設のガソリン販売」が利益に貢献していたことは、22年4月の筆者記事にも書いた通りです(参考:『セブン&アイがそごう・西武売却へ、教科書的な“選択と集中”に潜む「2つの死角」』)。
一方、24年に入って北米ではガソリン販売に陰りが出てきており、直近の24年度第2四半期業績(中間期決算)では、海外コンビニ事業の営業利益が国内のそれを大きく下回りました。また国内市場では、同業のファミリーマート(以下、ファミマ)、ローソンが既存店客数・客単価ともに前年を上回ったのに対して、セブンは既存店売上が前年割れとなりました。
これまでは国内のあらゆる立地へ出店拡大することで成長を維持してきましたが、いよいよ「面の拡大」が限界に近づいているようです。そんな中、「限られた立地・店舗数でどう利益を最大化するか」がこれまで以上に重要になっているといえるでしょう。
そんな時こそ見直したいのが、マーケティングの基本「STP」です。STPは、古くからの考え方であるものの、多様化した消費者ニーズへ上手に適応する上でも力を発揮してくれるアプローチです。