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岸博幸のクリエイティブ国富論

金融危機からの復活を目指すアイスランドが描く「ジャーナリズム天国」構想の凄み

岸 博幸 [慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授]
【第79回】 2010年3月5日
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 アイスランドの窮地については、皆さんご存知と思います。思い切った金融自由化により金融立国を実現したものの、2008年の金融危機の影響をもろに受け、今や30万人足らずの国はGDPの9倍の対外債務を抱えるに至りました。3月6日には、英国とオランダへの預金返済法案が国民投票にかけられることになっていますが、否決された場合は欧州の金融市場の新たな混乱要因になるかもしれない、と言われています。

 こうした事実は既にたくさん報道されており、読者の皆さんもよくご存知だと思いますが、それでは、そのアイスランドが経済復興に向けて、金融とはまったく異なる新しい分野への進出を狙っていることはご存知でしょうか。なんと、アイスランドを“ジャーナリズムの天国”にしようとしているのです。

国会議員の3分の1がすでに賛成する
“ジャーナリズム・ヘブン”構想

 私も偶然その事実を知ってびっくりしたのですが、アイスランドでは、数名の国家議員を中心に、“アイスランド・モダン・メディア・イニシアティブ”(Icelandic Modern Media Initiative)という構想が動き出しています。

 その概要を簡単に説明すると、世界でもっとも“表現と情報の自由”(freedom of Expression and Information)が守られる環境を実現することによって、アイスランドが主にネット上でビジネス展開するメディアや出版社の拠点(本拠地の移転、起業、データセンターの設置)となり、更には人権擁護機関の拠点となることを狙っています。

 その背景としては、ジャーナリズムが十分に機能していなかったために、金融に関する銀行や行政の暴走を制止することが出来なかったという反省と、ブロードバンドの普及に伴い、ネット時代のメディアは自国の外に拠点を置くことも可能になったという事実認識があるようです。また、スウェーデンが報道の自由を法律で担保して以来、多くの報道機関や人権擁護機関が拠点をストックホルムに移し、一方でマレーシアでは報道の自由が犯されたことで新聞社が本社を米国に移した、といった事例も参考となっているようです。

 この構想によれば、“ジャーナリズムの天国”という環境を実現するために、既存の情報自由法(Freedom of Information Act)を大幅に改正して、世界中の法律の規定のうち、表現と情報の自由を定めた優れた条文をすべて引っ張ってきて盛り込もうと考えているようです。タックス・ヘイブン(租税回避地)ならぬジャーナリズム・ヘブン(天国)を実現しようとしているのです。

 ちなみに、党派の偏りなくアイスランドの国会議員の1/3がこの構想に賛成しているようであり、今月から議会で議論が始まるようです。

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岸 博幸 [慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授]

1986年通商産業省(現経済産業省)入省。1992年コロンビア大学ビジネススクールでMBAを取得後、通産省に復職。内閣官房IT担当室などを経て竹中平蔵大臣の秘書官に就任。不良債権処理、郵政民営化、通信・放送改革など構造改革の立案・実行に関わる。2004年から慶応大学助教授を兼任。2006年、経産省退職。2007年から現職。現在はエイベックス・マーケティング株式会社取締役、エイベックス・グループ・ホールディングス株式会社顧問も務める。

 


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