夕方5時、パークソンSC交差点前

 夕刻、ベトナム・ハノイ市内のパークソンSC前交差点は、まるで“バイクの洪水”が起きたかのようだ。遠慮がちに走る数台の自動車を尻目に、おびただしい数のバイクが行き交う。その圧倒的な数に加え、もうひとつ印象に残るのが、彼らの被るヘルメットである。およそ日本では見かけない、カラフルでおしゃれなデザインばかりなのだ。

 実はベトナムでヘルメットの着用が義務付けられたのは昨年12月からで、それまではいわゆるノーヘルが当たり前だった。だがひとたび規制がかかると、そこは共産党国家、ルールには従う国民性からかあっという間にヘルメットは普及した。

 ところがこのヘルメット、安全とは言えない物が多いのだ。強度の低いプラスチックに布を巻き、おしゃれな飾りやベースボールキャップのようなつばを付けた物もある。安価でファッショナブルということで特に若者の間では人気だ。

 しかし、“にせものヘルメット”はむしろ危険を招く。転倒時、プラスチックが割れて頭蓋骨に突き刺さるという事故例が後を絶たないのだ。身の安全のためにヘルメットを被るという真の意味が理解されるのには、もう少し時間がかかりそうだ。

 にせものはヘルメットだけではない。実はバイクそのものも安価な中国製コピー品が数多く出回っている。ベトナムのバイク市場は今年、300万台(対前年比104%)の規模となることが確実視され、中国・インド・インドネシアについで世界で4番目に大きな市場である。ところがなんとその3割強、100万台以上がホンダやヤマハ発動機など、日系メーカーの模倣品なのである。

 一見しただけではコピー品とはわからないが、ロゴ部分、HONDAが「HUNDA」に、YAMAHAが「YAMAZA」となっている。また、購入してから半年で故障し始めるなど、品質は悪い。価格は、本家本物のホンダ製バイクが最も安い物で約9万円、ポピュラーな物で約15万円に対して、中国製コピー品は3万円。ベトナムの平均大卒初任給が2~3万円ということを考えると、比較的手に入れやすい。

ハノイ市内フエ通りにはヘルメット屋が軒を連ねる。一見帽子に見える物も触ると堅い。薄いプラスチックを布で飾った“にせものヘルメット”だ

 根底にあるのはジャパン・ブランド信仰だ。日系メーカーが圧倒的シェアを誇るバイクだけではなく、家電製品では「NIKKO」というロゴの入った、日本ブランドに見せかけた商品が出回っている。架空の日本ブランドにもかかわらず、勘違いしたベトナム人は「パナソニックの半額だ」と言い買っていく。

 このような事態に対し、行政はコピーバイクの摘発に乗り出してはいるが、摘発台数は2001年から現在までで累計2万1000台、まだまだ氷山の一角に過ぎない。また、中国のコピーバイクメーカーは「わかっているだけで200社」(関係者)もある。

 ベトナムのバイク市場は4~5年後、500万台まで成長すると見込まれる。最近は「どうせ買うなら無理をしてもHONDAが欲しい」という風潮も生まれつつある。市場の成熟と共に、はたしてベトナム人の本物志向は高まるだろうか。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 柳澤里佳)