トランプ氏が米国大統領の座に返り咲く。彼が掲げる経済政策は、いずれも米経済のインフレを高進させる。連邦準備制度理事会(FRB)の利下げペースは鈍化するどころか25年に利上げに転じる可能性さえある。ドル高円安の進行が見込まれ、日本のインフレは上振れしそうだ。インフレのため、日本銀行は12月にも追加利上げに踏み切るだろう。(BNPパリバ証券経済調査本部長チーフエコノミスト 河野龍太郎)
物価高がトランプ氏を勝たせ
ハリス氏を負けさせた
11月5日に実施された米大統領選挙は、トランプ氏の勝利に終わった。それだけでなく、議会選挙についても、上下両院ともに共和党が抑えるレッドスイープとなり、トランプ次期大統領は、来年1月の就任後、大統領選で掲げてきた政策を、実行に移しやすい立場を手にした。
周知の通り、その主たるものは、大幅な関税引き上げ、大規模減税、移民規制の再強化など、米経済にインフレ的な作用を持つものばかりだ。今回の選挙結果の、今後の日銀の政策へのインプリケーションはどう考えるべきか。
まず、トランプ再選の背景について触れておく。直接的には、有権者の間に、現バイデン政権の経済運営への不満があった。一言でいえば、物価高への不満である。インフレは改善傾向にあり、失業率も低いとは言え、物価水準は切り上がったままだから、有権者には、物価高が続いていると映った。
今年、イギリスで政権交代が生じたのも、また、フランスで下院選挙後に政権不在が長引いたのも、インフレによって家計の実質購買力が大きく損なわれたことが影響している。
日本でも、岸田文雄前首相が退任し、その後、石破茂首相の下、衆議院選挙で自公が過半数を割り込んだのも、「政治と金」の問題の影響は大きかったが、円安インフレで苦しめられた国民の怒りと無縁ではない。
さらに、トランプ第2次政権誕生の底流には、アンチエスタブリッシュメントの大きなうねりがある。高い教育を受けたエスタブリッシュメントが、グローバリゼーションを推進し、低中所得層を苦しめているという通説を受け入れた有権者は、トランプ共和党に投票した。
かつての共和党は、経済的自由を重視するリバタリアン、米国民主主義の普遍性を広げようとするネオコン、宗教や共同体を重んじる伝統的な保守主義の三つの連合体だったが、トランプ第1次政権でリバタリアンとネオコンは駆逐され、共和党はアンチエスタブリッシュメント政党に変容していた。
ハリス氏は、サンダース的なアンチエスタブリッシュメント路線に踏み出せず、むしろ移民や金融グローバリゼーションを推し進めたクリントン氏、オバマ氏、バイデン氏の系譜と捉えられたのである。
トランピズムの本質は、経済ナショナリズム、国境管理(移民規制)、アメリカファーストの外交の三つであり、これが政策の基本路線となる。
次ページ以降、2期目のトランプ政権の政策が日本の経済、物価、金融政策に及ぼす影響について検証する。