ダイヤモンド社刊 1890円(税込) |
「私はその頃まだ、ビスマルクが勝利を収めた1878年のベルリン会議の後、大英帝国の宰相ディズレーリが言ったというセリフを知らなかった。『ドイツも可哀相に。ビスマルクも年だし、いつまでも生きていられるわけではない。臆病で何もできないか、馬鹿で何でもできると思っている奴が、後を継ぐ。どちらにしてもドイツは滅びる』」(『ドラッカー わが軌跡』)
ドラッカーは、フランクフルト大学法学部の国際法のゼミを高齢の教授に代わって仕切っていた頃、大宰相は国にとって災厄であるとの感を深めていく。
フランスはリシュリューの後遺症から抜け出せなかった。オーストリアはメッテルニヒの成功のおかげで衰退し、ドイツもやがてビスマルクの成功のゆえに敗北した。大宰相の後を継ぐ者は凡才となるからだった。
こうしてドラッカーは、大人物の後継にまつわる矛盾に関心を引かれた。
大人物でなければ、ビジョンもリーダーシップも期しがたい。凡才では無理である。この大人物の後に空白が生じる。教わったことしかできない者が後継となる。
「自ら強力であって、かつ後継者が強力であるという真のリーダーは、一般に信じられている大人物とは、見た目も行動も大きく異なる。カリスマ性なるいかがわしいものとは無縁である。彼らは、勤勉さと献身によってリーダーとなる。権力を集中させずにチームをつくる。操作によってでなく、真摯さによってリーダーとなる」(『ドラッカー わが軌跡』)