狭い室内で大量生産でき、農薬もいらない――。「野菜工場」が人気を博している。野菜工場とは、室内に野菜や植物の栽培棚を設置し、蛍光灯やLEDの光を使って(太陽光を室内に取り入れるケースもある)、まるで工場のように計画的に生産するシステムだ。天候や季節の影響を受けることなく量産できるため、安定供給が可能だ。病原菌や害虫の被害にもあうことがない。したがって、それらを予防、駆除するための農薬も不要である。こうした安全性と効率性の高さが売りだ。
「野菜工場」という言葉は聞き慣れなくとも、「こくみトマト」には聞き覚えがある読者もいるかもしれない。「こくみトマト」は、カゴメブランドの生食用トマトだが、実はこれも野菜工場で作られている。大手外食チェーンのサブウェイも、今年7月にはじめて「野菜ラボ丸ビル店」の店舗内に野菜工場を設置、実際に栽培したレタスを使ったサンドウィッチを販売し、話題を呼んでいる。毎日50株程度のレタスが収穫でき、店舗で作って店舗で売る「店産店消」というわけだ。
経済産業省や農林水産省も、農業の工業化の一事例として、積極的にサポートしている。昨年は実際に経済産業省庁舎別館ロビーに、野菜工場のモデル施設が設置され、デモンステレーション栽培が行われた。
有機栽培天然土壌素材「ヴェルデナイト」を活用した野菜工場の販売事業を展開する丸紅には、現在、国内の病院などの医療施設から、「ぜひ設備導入を検討したい」とのオファーが相次いでいる。ここでは植物が成長する過程を見ることの“癒し”効果が受けているようだ。関西のある病院では、スタッフが病院食用の野菜を栽培する実験も行われている。
ただし問題は採算性だ。丸紅が販売する、飲食店や小売店の店舗向けの野菜工場ショーケースは、全3段、およそ2メートル四方のものだが、販売価格は120万円。温度調節が自動ではなく、購入者自ら管理しなければならない廉価版でも、初期費用だけで38万円かかる。「例えば高麗人参など付加価値のあるものを作れば、採算は取れる」(丸紅関係者)というが、空調などのランニングコストが加わることを考えれば、かなり高額の予算が必要になる。
また、栽培検証された野菜の種類がまだ少ないこともネックだ。葉物類は栽培が可能だが、根菜類は現時点ではゴボウ・ラディッシュ・辛味大根・ベビーキャロットの4点のみが検証済みだ。高麗人参についてはもちろん、まだだ。
普及にはまだ時間を要しそうだが、野菜工場の野菜は価格変動が少なく、安定供給が可能だ。外食チェーンなどの大手ユーザーに採用されるかどうかが、カギとなる。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 脇田まや)