
「経営の神様」稲盛和夫と、「生ける伝説」孫正義――。そんな2人がガチンコでぶつかり合った「クリスマス対決」をご存じだろうか? スター経営者同士のドリームマッチの行方と、両者の経営理念を解説する。(イトモス研究所所長 小倉健一)
稲盛「よし、50万個買おう。ただし…」
1986年12月24日のクリスマスイブのことだ。29歳の孫正義が、京都市山科区の京セラ本社を訪れた。持参したのは、ソフトバンクが開発した通信装置「NCC・BOX」の試作品だった。NCCとは「New Common Carrier」の略であり、NTT以外の新規参入通信事業者を意味する。
当時の通信業界はNTTによる独占に近い状況だった。ほとんどの国民は高い通信料金をNTTに支払っていた。
孫が開発した装置は、手のひらに乗る小さな箱型で、自宅の電話回線に取り付けるだけで、複数の通信会社の回線を比較し、自動的に最も安価なものを選択するという画期的な機能を持っていた。
従来、NTT以外の通信回線を使うには、電話番号の前に「0088」などのプレフィックス番号を手動で入力しなければならなかった。この不便さが通信自由化の障壁になっていた。
NCC・BOXは、これを機械的に解消する装置であり、新興通信事業者にとっては飛躍的な利用拡大のきっかけになり得た。孫が目指したのは、通信市場の構造そのものを変えることであった。
孫の提案に対し、京セラ創業者であり、当時第二電電(現KDDI)の会長だった稲盛和夫は意外な反応を見せた。孫の説明を聞いた稲盛は、その場で「よし、50万個買おう。ただし、他にはおろさんでくれ(売らないでくれ)」と求めたのである。