最近、航空会社は従来のエコノミークラスのシートよりも少しスペースの広いプレミアムエコノミーシートを導入しつつある。これで得をするのは誰であろうか?今まで、あの劣悪なエコノミークラスのシートに体をうずめて10時間以上かけて欧米に旅行、もしくは出張をしていた人は、少し高い値段を支払うことで快適な空の旅をエンジョイできることになる。航空会社にしてみると、高い値段で利用する客が増えることで利益が向上する。供給者、需要者の両方にとってwin-winの関係に思える。
しかし、なぜ今までこのプレミアムエコノミーシートがなかったのであろうか? 少し考えてみていただきたい。私は、航空会社がエコノミークラスの利用者のニーズをキチンと把握していなかったから、という説を立てた。しかし、ミクロ経済学の知識を使うと、違う説が登場する。ということで、今回はミクロ経済学の授業のお話だ。
顧客によって料金を変える
価格差別戦略
ある日、そのミクロ経済学の授業で価格差別戦略について学んだ。これは、企業は消費者のタイプ別に提供する価格を変えるというものである。たとえば、大量に購入する人にはディスカウント価格で商品やサービスを提供したり、学生や子供に学割料金や半額の価格でサービスを提供するなど、企業が価格差別をしている場面は多々存在する。あるサービスに対する欲求が高い人ほど高い料金を支払ってもいいと考えるはずであり、企業にとってはどの消費者が高い欲求を持っているのかを認識し、そこにきちんと高い料金でサービスを提供することが重要となる。
さて、もう一度先ほどの質問に戻る。なぜ航空会社は今までプレミアムエコノミークラスを導入していなかったのであろうか? 上述の価格差別戦略がヒントである。教授が「これはあくまでもこの価格戦略を感覚的に理解するための例だが」と言って紹介したのがまさにこの航空会社の例である。
エコノミークラスの環境をこれ以上にないくらいに劣悪にしておくことによって、ビジネスクラスを利用している人に、間違ってもエコノミークラスを利用しようとは思わせないことが航空会社にとって重要だということである。エコノミークラスの快適度合いを上げようものなら、航空会社にとって利潤の高いビジネスクラスの客がエコノミーに流れてしまいかねない。当たり前のことであるが、エコノミークラスしか利用しない立場で考えると、なかなか気付かない点ではなかろうか。