うたい文句は「ホテルの客室のように快適に過ごせます」。高速ツアーバス大手のウィラー・トラベルがこの7月に運航を開始した「ビジネスクラスバス」。 |
「飛行機のビジネスクラスは、とんとご無沙汰。マイルはちっとも貯まらない」「部長!真剣に出張制限をなんとかして下さい。これじゃあ、とれる契約もとれません!」
営業成績が落ち込む昨今、安居酒屋で出張費抑制のグチをこぼすビジネスマンは少なくないはず。労務行政研究所がまとめた調査によると、53%の企業が過去2年間で国内出張費を削減している。新幹線も航空機も最近の利用実績は散々だ。
そんな節約志向の時代に、豪華な設備で出張向けサービスを始める業界がある。長距離バス業界である。
高速ツアーバス大手のウィラー・トラベルはこの7月、「ビジネスクラスバス」を東京~大阪間で運行開始した。うたい文句は「ホテルの客室のように快適に過ごせます」。乗車口ではホテルのフロントさながら、専属の乗務員が出迎える。
通常のバスであれば40席のところ、わずか16席。各座席はカーテンやパーテーションで仕切られ、プライベート空間が確保されている。座席はテーブル付きでコンセント、無線LANを搭載。くつろぎたければ、後方部にある広々とした化粧室で着替えてプライベートテレビを楽しめる。眠くなれば電動リクライニングのボタンを押すだけだ。
深夜長距離バスの利用経験者は「車内が豪華でも、早朝の到着がつらい。店は開いていないし、風呂にも入れない」と指摘するかもしれないが、その点も配慮。乗降場所であるホテルや近隣でアーリーチェックインやスパ・サウナ利用のオプションを用意し、一泊する予定があれば、ホテルに荷物を預けて身支度を整えられる。出張帰りで宿泊予定がない場合も、一風呂浴びてからの出勤が可能だ。
出張を含む旅行客数が減り、長距離バス業界も当然苦しい。ただ、その利用者状況をみると、大半はレジャー目的。出張目的は元々取り込めていなかった。
「だからこそ出張費抑制は絶好のチャンス」とウィラーの村瀬茂高社長。同社のビジネスクラスバスの価格は8800円~。長距離バスとしては高価格帯だが、新幹線の指定席と比べれば4割ほど安い。出張費抑制に悩み、かつ、「疲れる」「時間がかかる」といった理由で長距離バス利用を選択肢に入れてこなかったビジネスマンを意識した。
とはいえ、一社だけで“バス出張”を浸透させるのは難しい。じつは今、複数のバス会社が戦略を共有し、同様のサービスを準備中。今秋には長距離バス業界で広くサービスが始まろうとしている。そのうえ、ライバルであるはずの航空会社から「往路は移動時間の短い航空機、復路は一杯飲んだ後に出発時間の遅いバスを利用すればいい」という声があり、「打倒!新幹線」で共闘する可能性が高い。
好景気時代、航空機の高級シートは、ホテルばりの設備とサービスで“空飛ぶ高級ホテル”と評され、世界のセレブ、エグゼクティブに愛された。不景気時代は“高速道路を走る高級ホテル”が日本のビジネスマンの心を掴むかもしれない。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 臼井真粧美)