ミャンマーの問題は、民主化の遅れもさることながら、軍事政権の経済無策にあると米ブルッキングス研究所のシニアフェロー、レックス・リーフィール氏は説く。同国では11月7日に20年ぶりの総選挙が実施され、その6日後に民主化運動指導者のアウン・サン・スー・チー氏が解放されたが、総選挙後90日以内に召集される予定の新国会も軍政系議員が絶対多数を握ることから、経済運営の早期かつ抜本的な改善は望み薄だ。その一方で、ミャンマーには、北朝鮮の協力を得て核兵器開発に着手しているとの疑惑もある。経済難の中で、仮に軍政が暴走するようなことがあれば、世界の安全保障体制を脅かす存在ともなり得る。北朝鮮問題の陰に隠れたアジアのもうひとつの不安材料について、専門家の意見を聞いた。(聞き手/ジャーナリスト、瀧口範子)
ブルッキングス研究所のシニアフェロー。専門は東南アジアなどの発展途上国経済。プリンストン大学卒業後、タフツ大学で修士号を取得。アメリカ海軍、平和部隊などを経て、米財務省エコノミスト、国際金融協会(IIF)のディレクターおよびシニアアドバイザーを務めた経歴を持つ。ブルッキングス研究所による調査書『ミャンマー/ビルマ: 国内の挑戦と海外の関心』を今年編纂した。
――ミャンマーで、民主化運動指導者のアウン・サン・スー・チー氏が通算15年に及ぶ自宅軟禁を解かれた。スー・チー氏はミャンマーの民主化実現へ政治活動を本格化させる決意を表明。軍事政権の出方次第では、制裁解除へ米欧諸国を説得する考えがあることも示し、軍事政権との対話の糸口を探っている。今度こそ民主化は進展するのだろうか。
残念ながら現実は厳しい。ミャンマーでは(11月13日のスー・チー氏解放より6日前の)7日に20年ぶりの総選挙が開かれたが、結果は軍事政権を継承する政党(軍政の翼賛政党である連邦団結発展党=USDP)の圧倒的勝利に終わった。
軍事政権は自らの統制力に自信を深めているのだろう。スー・チー氏の解放という決断自体がその表れであろうし、目下のところ、解放されたスー・チー氏に何らかの政治的役割が与えられる様子もない。(総選挙後90日以内に発足する予定の)新政権においても、状況はきっと変わらないだろう。新政権とスー・チ―氏との間に近い将来、共通の議論のプラットフォームが整備されると考えるのは、現時点では楽観の域を出そうにない。
――欧米諸国は、ミャンマー製品の禁輸措置や軍政関係者の在米資産凍結などの経済制裁を実施してきたが、こうした制裁の解除も望み薄か。
こう答えよう。制裁はそもそもあまり効果を発揮できていない。これは、ASEAN諸国や中国、インドなどが欧米諸国の制裁を支持せず、全面的に従わなかったためだ。民主化を進めるという目的でアメリカが軍事政権にいくら圧力をかけても、ミャンマーは他の国々と普通に取引できているのである。その意味で、制裁の解除うんぬんをここで議論しても仕方がない。それよりも、現実を見据えれば、ミャンマーには「政治の自由化」よりも「経済の自由化」をまず促していくしかないのではないだろうか。
――プライオリティは、民主化ではないということか?