ついに、鈴木修・スズキ会長が動いた。独フォルクスワーゲンに代わる婚約相手として秋波を送ったのは、自動車業界の盟主、トヨタ自動車だった。これで、日系自動車メーカーは、トヨタグループ、日産自動車、ホンダの3陣営に集約されることになる。鈴木会長は経営の独立性を維持したい構えだが、事はそう簡単に進みそうもない。(「週刊ダイヤモンド」編集部 浅島亮子、山本 輝)
最後にスズキがすがったのは、やはりトヨタ自動車だった。独フォルクスワーゲン(VW)との泥沼の離婚劇から1年余り。その間、鈴木修・スズキ会長の悩みは深まるばかりだったに違いない。
そもそも、スズキがVWと資本提携した目的は環境技術を取得することにあった。だが、支配力を強めるVWに不信感を抱いたスズキは、経営の自主独立性を維持できないとして破談に持ち込んだ。
提携相手を失ったスズキは、技術的問題を克服できなかったばかりではなく、従来以上に、取引先や株式市場などのステークホルダーから経営の持続性を疑問視されるようになった。86歳と高齢の鈴木会長がいつまで第一線で指揮を執れるのか──と。
そんなことは外部から指摘されるまでもなく、鈴木会長自身が身に染みて分かっていたことだ。表舞台での強気な発言とは裏腹に、「経営の行く末が心配だ」と周囲に漏らすようになっていた。
タイムリミットが迫る中、悩みを打ち明けたのが、豊田章一郎・トヨタ名誉会長(豊田章男社長の父。91歳)だった。自動車メーカーの経営層では世代交代が進み、「いまや、修会長にとって業界の先輩といえるのは章一郎さんしかいない。唯一、会長が“敬語を使う”相手」(スズキ幹部)である。
「不定期ではあるが、米ゼネラル・モーターズ(GM)と袂を分かったり、VWと離婚したりと、大きな節目を迎えるたびに近況を報告する間柄ではあった」(同)
GMにせよ、VWにせよ、スズキがパートナーと提携する際の姿勢は一貫している。1000万台クラブを想定した“大きな傘”の下で、スズキは自由に経営する自主独立性を守るというものだ。
となると、残る提携相手はビッグスリーの一角であり、経営への不可侵も期待できるトヨタしかなかった。鈴木会長は“救世主”としてのトヨタに秋波を送り、業務提携の検討へとこぎ着けた。
トヨタグループでも軽自動車規格は消滅の危機
「協議を始めることを決めたばかり。中身の話はこれから」。10月12日の会見では、鈴木会長も豊田社長もそう繰り返すだけで、提携の具体策への言及は控えた。会見中は終始、豊田社長が実父と同年代の鈴木会長に配慮しながら慎重に発言する姿が目立った。
では、今後、両社の関係はどうなるのか。スズキがトヨタの軍門に下ることはないのか。
当面は、業界の盟主たるトヨタが力ずくでスズキを配下に置くということは考え難い。だが、世界の自動車メーカーを取り巻く競争環境を考えれば、悠長なことを言っていられないのも事実だ。両社が協議を進める上で、二つの問題が浮上することになるだろう。