「本や雑誌が売れなくなっているのは、ウェブで無料で文章が読めるようになったからだ。」一時期、そんな言動が聞かれたこともある。しかしここ最近は、ウェブコンテンツが書籍化されたり、書籍のプロモーションとしてウェブが積極的に活用されたりと、むしろ「本とウェブの融合」が本格化している。

そして、その「本とウェブの融合」は少しずつ進化しているようにも見える。ブログなどのウェブコンテンツが書籍化されることは特に目新しいことではないが、書籍化を前提としたコンテンツをウェブに“すべて”さらしてしまう、という新たな動向に、私はいま注目している。

ウェブで先に内容を読めてしまったら、本が売れなくなるという心配はないのだろうか。

ひとつの例として、NewsPicksという経済ニュースサイト/アプリで連載された後に、講談社によって書籍化された『進め!!ブラック企業探偵団』のケースを取材した[1]。全文を連載としてウェブで公開していた本書が、発売後、好調な売れ行き(*)を示した理由はどこにあるのだろうか。本記事では、著者である現役東大生・大熊将八氏に取材をすることから、その理由を導いてみた。(*東大京大の生協での書籍売上1位を記録など)

ウェブで先に読めることが、
むしろ本の内容を大幅にパワーアップさせた

進め!! 東大ブラック企業探偵団
作者/大熊 将八 出版社/講談社 出版日/2016年02月24日

柳内 『進め!!ブラック企業探偵団』(以下、「ブラック企業探偵団」)が出版されるまでの経緯を教えて下さい。

大熊将八(以下、大熊) 私は、京都大学客員准教授であり、ベストセラー『僕は君たちに武器を配りたい』の著者である瀧本哲史さんのもとで、投資を学ぶゼミに立ち上げメンバーとして関わっていました。そのゼミでは投資のために、財務諸表の読み解き方やニュースの解釈の仕方、取材方法などの企業分析術を学んでました。

 その学びを通じて、世の中で一見正しいと信じられていることが実は間違っていることや、反対に、世の中の多くの人が信じていないが実は正しい事実を見つけ出すことのおもしろさを知るようになりました。

柳内 例えば、どんなことですか?

大熊 例えば一見業績好調な企業が実は粉飾決算をしている、などです。実際に、「江守商事」という当時東証一部上場していた企業について、毎年売上と利益を伸ばしているもののキャッシュフローが不明瞭で怪しい、とゼミ生が目をつけていたら、その約1年後に粉飾決算が発覚したこともありました。

柳内 すごいスクープですね。それを学生がやるなんて驚きです。