◇中国との戦略的信頼を築けるのか?

 2016年の大統領選に向けて日本が気を揉んでいるのは、中国に対しアメリカがどんな距離をとり、どんな関係を築くのかである。

 中国の習近平主席が説いた「米中G2論」は、21世紀の国際社会・秩序をアメリカと中国の二大国で仕切っていくべきだという、新しい外交セオリーである。日本は、過去の「ニクソン・ショック(米中電撃和解)」を彷彿させる、この論理に対し、大きな懸念を抱いていた。しかし、ヒラリーは「世界のリーダーが米中というG2になるとは信じていないし、適切だとも思わない」と否定の意を示した。彼女は、アメリカが中国との覇権争いに奔走し、第一次世界大戦を引き起こしたイギリス、ドイツと同じ轍を踏むようなことがあってはならないと思っているのだろう。

 現にヒラリーは、中国を、新たな冷戦構造の悪役に仕立てるようなことは決してせず、極めて現実的な観点に立ち、「競争を管理し、協力関係を育てるような仕組みを必要とする」と強調している。

 今後ヒラリーは、中国との「戦略的信頼」の醸成を、対中外交の要諦にする可能性が高い。サイバーセキュリティーや北朝鮮問題、南シナ海での航行の自由といった諸問題を解決するための交渉のテーブルに着くべきだというヒラリーの主張は一貫している。いずれにせよ、こうした米中関係の紆余曲折の「洗礼」を最も強く受けるのが、2017年1月に誕生するアメリカの大統領だといえよう。

◇ヒラリー・ランドの住人たち

 ヒラリーが大統領になった場合、どんな人物が政権の重要ポジションを担っていくのだろうか。そのカギを握るのが、女性の権利向上を掲げるヒラリーを慕って、集まってきた集団「ヒラリー・ランド」である。彼女たちの結束は固く、今では政治家ヒラリーの放つ強力な磁力に引かれて、様々な分野の逸材が「側近集団」を形成しているという。

 その側近衆の中でも、今後の政策に影響を及ぼすであろう3人を紹介する。まずは、ヒラリー政権が最優先課題に位置付けるであろう、女性の権利向上に並々ならぬ情熱を注ぐ、メラニー・バービアーである。彼女は女性の才能を解放するうえで、政府の責務は大きいと主張する。彼女の言動からは、アメリカだけでなく日本にも、女性の権利拡大をめぐる「外圧」をかけてくる可能性が大いに高いことがわかる。

 また、対日政策立案の中心人物は、ジョセフ・ナイ米ハーバード大学教授になると目されている。彼は沖縄米軍・普天間基地の移設問題に対し、沖縄も戦略的に重要であるとしながら、沖縄の人々の負担軽減も視野に入れるべきだと述べている。ヒラリー政権誕生後は、普天間基地を含め、在日米軍のあり方や、中国を意識したアジア・太平洋地域における抑止力のあり方について、大胆に見直される可能性も大いにある、と著者は見ている。