Photo:South China Morning Post/gettyimages
チョコレートがきっかけで、中国から香港に密航してきた少年。彼はやがて香港で新聞王となり、民主運動の象徴となり、そして「極悪人」として禁錮20年の判決を受けた。アップル・デイリー創業者・黎智英(ジミー・ライ)に下った判決は、「普通の香港人」が享受していた自由の終わりを告げるものでもあった。(フリーランスライター ふるまいよしこ)
日刊紙創業者に禁錮20年――「やはり」という結末
2月9日、香港の裁判所は日刊紙「アップルデイリー」(蘋果日報、「りんご日報」とも)の創業者、黎智英(ジミー・ライ)被告に対し、「香港国家安全維持法」(以下、「国安法」)違反の外国勢力との結託共謀罪、煽動刊行物発行共謀罪などにより、禁錮20年の量刑を言い渡した。同時に、同紙の運営責任者や編集長、主筆など8人にも6年3カ月から10年の禁錮刑が下った。
昨年12月には香港の法廷の慣習に従い、すでに有罪判決が言い渡されていた。その際、裁判を担当した3人の「国安法指定裁判官」は、黎被告をはじめとする9人の罪状は「重大」であり、特に黎被告を事件における「影の首謀者」であり、「推進者」だと呼んだ。
黎被告は現在78歳。2020年8月に逮捕されて一度は保釈されたが、同年12月に改めて収監されて以来、ずっと拘束が続けられてきた。今回の量刑からその5年あまりを差し引いても、さらに約15年間、獄につながれることになる。裁判官は「服役態度いかんによって」さらに2年ほど早く出獄できると述べたが、たとえそれがかなったとしても、90歳を超えてからのこととなる。
支援者の間では有罪確定以降、黎が高齢であること、また持病を抱えていることなどから、量刑はもっと短くなるのではないかとの期待もあった。もちろん、「淡い期待」と呼ぶほかないものではあった。だが、中国に主権返還されるまでずっと香港市民が親しんできた英国式のコモン・ロー(普通法)制度においては、こうした酌量は――それほど珍しいことではなかった。しかし、禁錮20年という判決はそんな期待を大きく打ち砕いた。
判決言い渡しの傍聴券を手に入れるため、3日3晩裁判所前に並んだ支援者や元「アップルデイリー」関係者の間からは嗚咽の声が漏れたという。さらにこの判決は多くのメディア関係者にも絶望的な気分をもたらした。
筆者はというと、「禁錮20年」と聞いて、正直なところ「やはり」という感想だった。
なぜなら、2019年の激しいデモの後、2020年5月に中国政府が国安法の制定を進めているとの情報が流れ始めたときから、「ターゲットは黎だ」と言われてきたからだ。
そして、その言葉を裏付けるかのように、6月30日に中国・北京で同法が可決されると、わずか1カ月あまり後の8月10日に黎が香港警察国家安全処によって自宅から連行された。同日、日本でもよく知られている民主活動家の周庭(アグネス・チョウ)さんも自身の自宅で逮捕されており、この日は警察側にとって「大物逮捕」に踏み切る何らかの特別な理由があったようだ。







