統計学を駆使した
「選挙予報の神様」の敗北

 本連載「黒い心理学」では、ビジネスパーソンを蝕む「心のダークサイド」がいかにブラックな職場をつくり上げていくか、心理学の研究をベースに解説している。

ギャラップなどの世論調査会社をしのぐ正確な当選者予測をするとして「選挙予測の神様」と言われてきたアメリカの統計学者、ネイト・シルバー氏も、トランプ氏の当選は外してしまった。敗因はどこにあったのだろうか? Photo:AP/AFLO

 11月9日、アメリカでは大統領選が行われ、大接戦の末、ドナルド・トランプ氏が当選した。クリントン寄りだった米国大手メディアは、大きな驚きをもってこの結果を伝えた。

 ヒラリー・クリントン氏は大統領選挙中にメディア戦略に対し、膨大な選挙資金をつぎ込んでいたことが伝えられていたため、大手メディアの報道はバイアスがかかっていた可能性がある。このことは多くのニュースでも報道されているのでご存じの読者も多いと思う。

 だが、筆者を含む一部の専門家は少し別の驚きを持って、この結果を受け止めた。「選挙予測の神様も外した!」という驚きである。

 その「神様」とは、アメリカの統計学者、ネイト・シルバー氏だ。

 シカゴ大学で経済学を学んだ彼は、4年間のコンサルティング業務に就いた後、24歳のときに、メジャーリーグの投手の成績を予測する統計アルゴリズム「PETOCA」を開発した。

 これは第二次大戦後からのメジャーリーグの膨大なデータを基に、サイバーメトリクスという手法を使って、現在の投手の将来のパフォーマンスを予測するアルゴリズムだ。その後、投手だけでなく野手のパフォーマンスの予測アルゴリズムも開発している。その予測の正確さは評判となり、彼はスポーツ専門チャンネル「ESPN」専属のアナリストとして多くのコラムや本を執筆し、有名人になった。