書く欄が小さくても、ガンガンアピールせよ
「先生、ES見てもらっていいですか?」
「おっけ。ちょっと座って待ってて」
学生が仕上げてきたES、エントリーシート。ざっと目を通すと、記入スペースの小さなある質問項目のところで目が止まった。「専攻内容を教えて下さい」。一見、スルーしてしまいがちな小さなスペースだが、黙っていられずケチをつけてしまった。
「『ディベート、ディスカッションをした』ってあるけど、そんなの当然どのゼミでもやっているでしょ。書ける欄がこんな小さいんだから、書かなくても相手が想像できることは省略して、もっと本当に伝えないといけないことを書こうぜ」
「省略しちゃっていいんですか? 内容を訊かれているのに」
「ディベート、ディスカッションは『内容』ではないよ。『どこに住んでいますか?』と訊かれて『家』って答えるのと同じ。みんな家に住んでるってわかってるでしょ。わかってることを書いても答えじゃない。だから省略していいんだ」
「省略しちゃったら、書くことなくなりませんか?」
「何言ってんのさ。全然書き足りないじゃん。ほら、他ゼミとの合同学習をしましたって、具体的に何をして何を得たの?それが一番重要なんだけどな。あと、論文賞受賞って具体的にどんな論文賞か説明しなきゃ。あれって学内論文だけど、ちゃんと外部の企業の協力で成り立っているそれなりのものでしょ?」
「え? そうなんですか?」
「そうなんですかじゃないよ。アピールできるものはガンガン使わないと」
私はビジネススクールの専任教員なので学部のゼミを持っていないが、研究室にはたまにゼミのプロジェクトや課題について相談に来る学生もいる。今回の学生もそういう一人であり、偶然彼女のゼミでの取り組みを知っていたので、2倍、3倍アピールしないともったいない、と思ったのであった。しかし、書く欄が小さいとあたかも重要度が低いかのような錯覚に陥ってしまい、つい流して書いてしまう。
次に、『あなたについて書いて下さい』という質問のほうに目を移す。
「うーん、グッと来ないよ」
「え?」
「グッと来ないんだわ」
「グッとですか…」