「練習のための面接」に落ちて凹む悪循環
スーツ姿の3年生が一人、研究室にやって来た。
「みんな面接の練習するためにいろんな企業の面接を受けに行ったりしているみたいなんです。でも、自分はあまり予定入っていなくて…。今の時期、『忙しくない』ってヤバくないですか? 大丈夫かな、って不安になっちゃうんです…」
「練習のために面接に行く必要なんてないよ」
「え!?」
「意味ないよ。そんなの行っても落ちまくるだけだよ」
学生の顔がこわばる。
「練習ってことは本気じゃないってことでしょ。そしたら当然落ちるでしょ?」
「まあ…」
「企業は練習で学生と面接しないでしょ。企業にとっては全ての面接が本気。本気出してきている企業に、学生が練習気分で面接受けて通ると思う??」
「…」
「練習で面接に行く前は『練習だから落ちてもいいや』なんて軽い気持ちで行くんだけど、いざ本当に落ちると人間だから落ち込むんだよ。そして、『自分のどこが悪かったんだろう』なんて考え始める」
「はい(図星)…」
「別に悪いところはないんだよ。単に本気じゃないから面接に落ちた、ただそれだけのこと。なのに、自分の存在そのものが否定されたかのような感覚に陥ってしまうよな。すると、冷静でいられなくなってパニックになる」
「ああ…」
「男女関係と一緒。暇つぶしに誰かをデートに誘う時と、本気でデートに誘うときって違うでしょ? そしてそれは相手にも伝わっちゃうでしょ、きっと」
「ああ! そうですね、うん、わかる気がします!」
恋愛の話になると、とたんに分かりがいいらしい。
「面接で自己紹介の練習をしようなんて考えがあるんだろうけど、企業は新しい仲間を探しているんだから。前のコラムにも書いたけど読んだ?」
「読みました」
「表面上のペラペラな自己紹介じゃ伝わらないよね。重要なのは本気度。ほかにもっと本気で面接受けている学生がいれば、当然そっちが受かるわな」
「なるほど」
「だから、小手先の自己紹介の練習が必要なのではなくて、紹介する自己を見極めるのが一番重要。Who are you? What are you? 自分は何者なんだろう、自分は何に喜びを感じるんだろう? 価値観は? そのへん、まだ煮詰まっていないでしょ?」
1月にもなると、学生は一応、通り一辺倒な自己分析とやらは行っている。しかし、大体はまだまだ薄っぺらなものだ。学生自身もうすうすとそれが分かっているものの、それ以上はどうしようもないので、セミナーやら面接やらで自分を忙殺することに一生懸命になる。