失敗した部下を叱るだけではチャレンジしない文化が育つ

──今のお話は自分自身が失敗とどう向き合うかという視点でした。では、経営者として、上司として、部下が失敗したときにどう接したらいいですか。斉藤さんが3度目のリブートで立ち上げたループス・コミュニケーションズでは、社員にいろいろなことにチャレンジすることを推奨していますが、うまくいかなかった社員と、どのような話をしていますか?

 多くの場合、失敗したという事実を自分自身で気がついています。にもかかわらず僕が指摘したら、傷口に塩を塗ることになりかねません。だから、まず本人が気がついているかどうかを観察します。気がついていないときは、敬意を持って「それは間違っているよ」と伝えた上で、相手の話を傾聴して、一緒にどうすればいいかを考えます。

──コーチングに近いですね。

 はい。短期的な成果を求めるなら、ケツを叩くような形のほうが効果的かもしれませんが、最近グーグルやフェイスブックでも「職場の心理的安全性」ということがよく言われているように、失敗した人にどう接するかというたった一つのアクションによって、社内の文化が決まってしまう。とくにトップの人が常にプレッシャーをかける態度でいると、非常に心理的安全性は低くなるので、誰も新しいことにチャレンジできなくなってしまう。長期的に見ると、そのマイナス影響は無視できないと思います。

──最初からそうだったんですか?

 昔は違いました。数字を追いかけていたときは、ついミスした人をどやしつけてしまう自分がいました。それが治ったのは、母の影響です。母は、僕が何かしでかしても怒らない人でした。

 今でも覚えているのは、高校時代、僕のキセル乗車が見つかって、母が駅から呼び出されたときのことです。さんざん迷惑をかけたのに、母は帰り道で僕に何も言いませんでした。その原体験が大きい。わざわざ追い討ちをかけなくても、やらかした本人は相当凹んでいるわけです。そういう接し方があるんだなと学んで、それは自分が息子に対するときにも受け継がれています。ヤンチャなところは僕に似ているので、学校から呼び出されたこともありますが、学校でこってり絞られた後は、僕は何も言いません。今では僕と息子たちは熱い友情で結ばれていますよ。