アサヒビールの缶チューハイ『もぎたて』の売れ行きが好調だ。開発の現場、さらには平野伸一社長に話を聞くと、この商品が生まれた背景が、トップによる現場マネジメントの結果であることが見えてきた。(経済ジャーナリスト 夏目幸明)
「負け犬のままでいいのか」
社長の一言から始まった
アサヒビールは長年、缶チューハイの分野で苦戦していた。キリン『氷結』、サントリー『-196℃』など競合に比べ、強いブランドが存在しなかったのだ。平野伸一社長をはじめとする経営幹部は、この状況を打破すべく、行動した。
平野社長が最初に手をつけたのは、会社の中に漠然と存在していた「当社はこの分野に弱い」という前提をひっくり返すことだった。
平野社長は「この分野でトップを目指す」と宣言し、会議中、異例の言葉も使った。彼は社員に「負け犬のままでいいのか」とハッパをかけたのだ。
これほど強い言葉を敢えて使った背景には、企業の“全体最適”は、現場だけでは図れないとの思いがあったからだ。
例えばある工場に工員AとBがいて、Bは毎日、Aの仕事を引き継いで作業しているとしよう。そしてBはAの仕事に対し「先にこれを終えてくれれば生産性が上がるのに」と思っている。一方、Aにとって仕事の順番を変えることはまったく負担ではない――。
この時、AとBの間で業務効率化が図れるか?実はほとんどの場合、何も起きない。
例えばBがAに「図々しいお願いかな?」と遠慮して何も言えないことがある。また組織が大きく、AとBが顔を合わせたことがない場合や、Aの労力が多少増える場合もあるだろう。いずれにしても、AとBに任せっぱなしにしていれば、問題が解決されることなどほぼ皆無だ。