春秋の叙勲・褒章で5000人分の調書に目を通す

 そして、そもそも国事行為自体も、多くの人が頭の中に描く「たまに、短時間行われる儀式のようなもの」とは大きく異なる。

 例えば、国事行為の一つである「栄典の授与」(憲法7条7号)もそうだ。栄典とは叙勲や褒章、叙位(後述)などで、高名な画家が文化勲章、大臣経験者が大綬章(旧・勲一等)を受章し、陛下から勲章を手渡される映像を見たことのある人も多いと思う。

 だが、あのシーンを見て、栄典の授与を“年に1回か2回、少人数に手渡すだけの行為”と思うのは間違っている。実は叙勲は春・秋のシーズンで約4000人ずつ、褒章は約700人ずつが受章している。7条7号には「上位の」栄典だけ授与するとは書かれていない。ということは、天皇は全ての受章者に対し授与しているはずだ。それでは「授与」はどのように行われるのか。

 対象者が決まると、内閣官房からその裁可(許可)をお願いする文書(上奏書類)が宮内庁を通じ陛下に届く。具体的には、受章者の名簿と、それぞれの人がどのような理由で受章するかが書かれている「功績調書」だ。陛下は、それらの書類を読み、お願いの文書に「可」という裁可を示す印を押される。このデスクワーク(「ご執務」という)が栄典の授与という国事行為のメーンである。

 このように書くと、それほど大変ではなさそうにも思えてしまうが、春・秋のシーズンには5000人近い名簿と功績調書が届く。その量を想像してみてほしい。

 といっても“書類の全てに目を通されているのか”と思う人もいるかもしれないが、現在の陛下に関しては「目を通されている」と推測できるエピソードがある。ある政府関係者から聞いた話だが、ご執務の際、陛下が一部の受章者について、功績調書が添付されていないことに気付き、指摘されたことがあるのだという。

 その人は「どう考えても、陛下が全ての書類を読まれているということでしか説明がつかない」と言っていた。叙勲シーズンにはご執務が6時間に及ぶこともあるという事実も、そのことを裏付けている。

 春・秋以外にも叙勲は行われる。なぜなら、対象に該当しながらシーズンに間に合わず亡くなった人(死亡叙勲)や88歳以上の国民に贈られる「高齢者叙勲」もあり、これらが年間約1万件。このほか、死亡時に贈られるのであまり知られていないが、奈良時代の冠位十二階に起源を持つ叙位(「位階」〈正一位、従一位、正二位、従二位……〉の授与)も行われており、これが年間1万人以上。これらの裁可を求める上奏書類がシーズン以外に毎週何百人分も、功績調書を添えて陛下の元に届いている。

 これらが、国事行為13項目のうちの一つ「栄典の授与」であり、国事行為全体を想像していただく手掛かりになると思う。

大臣の官記(辞令)。認証を示す天皇陛下のご署名(「明仁」)がある

 ほかにも国事行為の「法律などの公布」(憲法7条1号、「公布」とは成立した法律の発効に際し国民に周知させる手続き)があるが、こちらも膨大だ。年間百数十の法律・条約が公布されており、公布を求める書類が陛下の元に届いている。

 100を超える理由は、条文の一部を改正したような場合でも「○○法の一部を改正する法律」として新法と同様に公布されるからだ。