2020年の東京オリンピックを前にいま東京は建築ラッシュ。でもちょっと待て! 建て替えるのはまだまだ早い。魅力的な建築がたくさんあるではないか。東京を愛する建築評論家による、建物からみた東京ガイド。

案内人=五十嵐太郎(いがらし・たろう)
建築史家、建築評論家。博士(工学)。東北大学大学院教授。朝日新聞の書評委員を務め、月2回ほどの頻度で寄稿中。新刊は『日本建築入門』(ちくま新書)。研究室のプロジェクトとして考古学とコラボレーションし、独特の空間デザインによって大量の縄文土器を群島状に並べた「先史のかたち」展を東北大学で開催。

なかまちテラス(小平市仲町公民館・仲町図書館)
~世界各地で活躍する建築家による公共空間~

建築評論家・五十嵐太郎さんが案内する<br />「見るまで死ねない」東京の名建築ガイド

 妹島和世は、西澤立衛と建築ユニットSANAAを組んで、世界各地で活躍し、ルーブル美術館のランス別館などを手がけた。東京のSANAAの作品としては透明感のあるディオール表参道ビルが挙げられるが、なかまちテラスは妹島個人の名義によるプロジェクト。

 角地にたつが、7つの箱をランダムに散りばめたようなプランによって、あえてはっきりとした正面性をつくらず、そのことで様々な方向に対して開かれた建築とした。空間を表と裏に分けず、個性をもったいろいろな場所をつくる手法は、いかにも妹島らしい。

 また透過性のあるエキスパンドメタルで覆われたそれぞれのボリュームも垂直に立ち上がらず、斜めになっているため、全体としては互いに寄りそいながら、ゆるやかな回転運動が起きているようにも感じられる。妹島は軽さと動きをもった現代の新しい公共空間をめざした。

建築評論家・五十嵐太郎さんが案内する<br />「見るまで死ねない」東京の名建築ガイド

設計:妹島和世建築設計事務所
施工:大成建設
住所:東京都小平市
竣工:2015年

座・高円寺
~黒いテント小屋のような印象的な造型の劇場~

建築評論家・五十嵐太郎さんが案内する<br />「見るまで死ねない」東京の名建築ガイド

 トッズ表参道ビルや銀座のミキモトビルなど、東京における伊東豊雄の仕事は商業施設が目立つが、これは公共建築だ。外壁を鉄板、内壁をコンクリートとした構造を採用し、やわらかな曲面を組み合わせた屋根をもち、黒いテント小屋をイメージした造形の劇場である。

 表面に無数の丸窓がついているのも印象的だろう。中央線の騒音を遮断すべく閉じた建築になっており、室内に入ると、赤を基調としつつ、光源となる水玉のドットのパターンが散りばめられたインテリアが包み込む。とくに階段は曲線がなまめかしく、エロティックにも感じられる。こうした身体になじむようなデザインは、伊東の真骨頂だ。

 チケットを購入して観劇することで、ホールの空間も体験することを薦めたいが、そうでなくとも、階段のあるメインロビーは見学できる。

建築評論家・五十嵐太郎さんが案内する<br />「見るまで死ねない」東京の名建築ガイド

設計:伊東豊雄建築設計事務所
施工:大成建設
住所:東京都杉並区
竣工:2009年

成蹊大学情報図書館
~宇宙ステーション? いえ図書館なんです~

建築評論家・五十嵐太郎さんが案内する<br />「見るまで死ねない」東京の名建築ガイド

 坂茂は、ポンピドセンターのメス別館を設計したことで知られる建築家。成蹊学園の創立100周年にあたり、同高校の卒業生であることから、彼が図書館を手がけることになった。

 はす向いの本館など、キャンパスの雰囲気に調和するよう、外壁には煉瓦タイルを用いるが、中央のアトリウムは宇宙ステーションと見まごうばかりのSF的な空間を内包している。高さ、大きさ、形態がそれぞれに異なる、ガラスの傘をもった白いキノコのようなボリュームが5本立ち上がるからだ。これらの用途はグループ閲覧室である。

 坂は銀座においてニコラス・G・ハイエックセンターのビルを設計したが、やはり吹抜けに面して、楕円などの個性的なかたちのエレベーターが各フロアの専属として直結していた。こうした彼が得意とする未来的なイメージが、図書館でも使われている。

建築評論家・五十嵐太郎さんが案内する<br />「見るまで死ねない」東京の名建築ガイド

設計:坂茂建築設計
施工:清水建設
住所:東京都武蔵野市
竣工:2006年