平和外交には「堅固な経済」が不可欠
こうしたシナリオを考えるときに、トランプ氏が大統領就任前にいちばん最初に面談した首脳が日本の安倍首相だったことには大きな意義がある。日本の外交当局の根回しが優れていたこともあるが、経済政策を成功させて長期政権を実現しつつある安倍首相に、トランプ氏が敬意を払っていることも大きいだろう。
両者が良好な関係を結び、足並みを揃えて自国の経済を成長させていければ言うことはない。ただ、今後の日米外交がどうなるかについては、不透明な部分も大きい。トランプ氏は、在日米軍の費用負担拡大を日本に求めるとされているし、東アジアにおける軍事戦略も見直しが進んでいく可能性がある。
たとえば、トランプ氏は以前から共和党を支持していたにもかかわらず、イラク戦争の開戦については批判的に考えていたという。かつてオバマ大統領は「米国は世界の警察であることをやめる」と語ったが、「米国を再び偉大にする」を掲げるトランプ氏は、これまで以上に自国民の経済的な豊かさや利害を優先することになりそうだ。
そうなれば日本は自ずと、同じ東アジアで経済・軍事大国になりつつある中国とどう向き合うかを考えざるを得なくなる。対米追随の徹底だけでは、日本の国益が損なわれることも十分あるし、日本独自の外交方針を掲げて、タフな交渉をする場合も出てくるだろう。
このあたりの国家戦略論については私の力量の範囲外だが、効果的な外交を行ううえでも、まずはその基盤となる自国経済をしっかり立て直すべき状況なのは変わらないはずだ。今後も対外的な武力行使に訴えることなく、平和的な外交をしたたかに進める日本であり続けるためにも、マネーの力を堅持した健全な国家を目指すべきではないか。
[通説]「日本は成熟経済に入った。右肩上がりの成長は不要だ」
【真相】否。日本経済はまともに成長する「最高の時代」へ。
アライアンス・バーンスタイン株式会社 マーケット・ストラテジスト。1971年生まれ、仙台市で育つ。1994年、東京大学経済学部を卒業後、第一生命保険に入社。その後、日本経済研究センターに出向し、エコノミストとしてのキャリアを歩みはじめる。第一生命経済研究所、BNPパリバ証券を経て、2003年よりゴールドマン・サックス証券シニア・エコノミスト。2008年よりマネックス証券チーフ・エコノミストとして活躍したのち、2014年より現職。独自の計量モデルを駆使した経済予測分析に基づき、投資家の視点で財政金融政策・金融市場の分析を行っている。
著書に『日本人はなぜ貧乏になったか?』(KADOKAWA)、『「円安大転換」後の日本経済』(光文社新書)などがあるほか、共著に『アベノミクスは進化する―金融岩石理論を問う』(中央経済社)がある。