トランポノミクスや新生アベノミクスが向かおうとしている方向性は、かなり似通ってきている。これを読み解くキーワードは「財政政策シフト」だ。「トランプ相場」の到来を的中させた外資系金融マーケット・ストラテジストの村上尚己氏の最新刊『日本経済はなぜ最高の時代を迎えるのか?』から一部をご紹介しよう。
「財政政策シフト」がはじまった!
トランポノミクスは、レーガノミクスよりはむしろアベノミクスとの共通点が多いことを前回に指摘した。どちらも長引く不況からの脱却を目指し、従来の金融政策に加えて財政政策による後押しを重視している。この政策によって日米がともに結果を出していけば、世界各国のポリシーメーカーたちにも大きな影響を与え、経済政策のスタンスが大きく変わっていく可能性がある。
いま振り返れば、世界各国が抑制的な財政政策をとるようになったきっかけは、2010年にはじまった欧州債務危機である。発端は、ギリシャ政府が財政赤字の数字を過小に公表していたことが判明し、同国財政に対する懸念が浮上したことだった。これ以来、他の欧州諸国の財政状況についても市場の疑念が高まり、深刻な不況が連鎖した。
この危機の原因は、各国の放漫財政にあったかのように言われているが、根本的にはユーロという通貨システムそれ自体に内在する構造問題があったことを、メディアは十分に強調していない。いずれにしろ、ユーロ通貨圏の各国は大幅な需給ギャップを抱えていたため、徹底した金融緩和と財政政策による成長押し上げが必要な局面であったことはたしかだ。
しかし、2011年に入ってからイタリアやスペインなどの南欧諸国で大幅な金利上昇が起こると、世界各国の財政当局を中心に「拡張的な財政政策は持続不可能だ。愚策である」との論調が強まっていった。