この問題を考える際に手がかりとなるのは、「需要の価格弾力性(または、弾性値)」だ。これは、「価格を1%引き上げた時に需要が何%変化するか」を示す指標である。これまで、電力については、「価格弾力性は-0.1程度」と仮定して議論されることが多かった(注1)。「電力は必需財なので、価格を引き上げても需要はあまり変化しない」とよく言われるのだが、その根拠がこれである。

 ただし、弾力性の絶対値がこのように小さい値であっても、価格を十分に引き上げれば需要は減る。「価格弾力性-0.1」を前提とした場合でも、価格を250%引き上げれば(価格を現在の3.5倍にすれば)、需要を25%削減することができる。

 第2回で述べた提案は、家庭の契約について、「40A以上の基本料金を5倍にする」というものであった。そこでのアンケート(「世論調査」)の結果では、全体の約3分の1の帯は現在も40A未満である。したがって、全体としての平均的な値上げ率は、(10/3+1/3)=3.67倍(つまり、267%の引き上げ)と考えてよい。

 そして、第3回で試みた評価では、これによって需要が20%ほど減少する。これから弾性値の絶対値を計算すれば、20/267=0.075となる。これは、通常考えられている弾力性の値と同じオーダーのものだ。

 なお、ここでは、ピーク時需要抑制の観点から、基本料金の引き上げを考えている。他方で、価格弾力性が議論される場合の「価格」とは、電力使用の単価のことだ。これらは、厳密に言えば別のものであることにも注意が必要だ。

(注1)価格弾力性をめぐる議論
電力需要の価格弾力性を知るには、実証分析が必要になる。-0.1という数字が妥当なものかどうかについては、さまざまな議論がある。

 文献(1)は、価格弾力性は、「短期では-0.06627から-0.32551の間、長期では-0.11326から-0.69075の間」としている。

 そして、-0.1と仮定することについて、「日本全体を集計して考える場合には一定の妥当性はあるものの、(中略)さらに小さい-0.01やゼロという値を仮定することには問題がある」としている。

 また、弾力性はもっと高いとの研究もある。文献(2)は、「短期で約-0.5~-0.9、長期で約-1.0~-2.7」としている。

 このように、結果にはかなりの幅がある。

 しかし、念のため述べておくが、これは、「経済学が頼りない」ということではない。「需要関数のあらゆる領域で弾力性が一定」というのは、もともと仮定である。それが正しくないのは、別に不思議ではない。需要関数はもっと複雑な形をしていることの反映であると考えてもよい。

(1)秋山修一、細江宣裕「電力需要関数の地域別推定」、経済産業研究所、2007年7月
(2)
谷下雅義「世帯電力需要量の価格弾力性の地域別推定」Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol.30, No.5
なお、これらの文献に参照文献目録がある。