JAグループに絶望感が漂い始めている。減収減益が続く縮小再生産から抜け出せなくなっているのだ。ダイヤモンド編集部の独自試算で、全国の農協が5年後に合計1700億円の減益ショックに見舞われ、207農協が赤字に転落することが分かった。現状を打開する成長戦略を持っている農協はごくわずかだ。特集『儲かる農業2024 JA農水省は緊急事態』(全17回)の#1では、消滅危機の農協を、財務データを基に明らかにする。(ダイヤモンド編集部副編集長 千本木啓文)
1700億円の大減益ショック
赤字転落要因は、共済の営業自粛と賃上げ
農協の5年後の収益を独自に試算して作成するJA赤字危険度ランキングは、ダイヤモンド編集部の恒例企画だ。過去の試算では、百数十の農協が赤字となってきたが、今年は、過去最多の207JAが赤字に沈む結果となった。
その要因は大きく三つ、(1)共済(保険)事業の減益、(2)農林中央金庫(農中)の減配、(3)職員の人件費の高騰――である。
三つの要因のうち最も影響が大きいのが共済事業の減益だ。
ダイヤモンド編集部は2022年9月の特集『JAと郵政 昭和巨大組織の病根』の#2『JA職員1386人が告発、共済「職員搾取営業」悪質度ランキング【24JA】1位は組合長に報酬700万の闇』などで、農協職員が過大な営業ノルマを達成するため、本来不要な共済に加入する“自爆営業”や不正契約に手を染めている問題を指摘してきた。そうした報道が相次いだために、農協は無理な営業を自粛せざるを得なくなった。
本編集部の試算は、向こう5年間、共済事業が5.5%ずつ減益となる前提で行った。22年度の農協全体の共済事業総利益が前年度比5.9%減、23年度上期は前年同期比7.4%減だったことを踏まえた。
農協のもう一つの稼ぎ頭だった信用事業も振るわない。日本銀行がマイナス金利政策を解除したのは追い風だが、農中が抱える1兆3207億円の有価証券の含み損(23年12月末時点)が重しとなる。
本編集部は、農中は財務の健全性を保つために減配せざるを得ないと判断し、試算に盛り込んだ。
農協の減益要因はこれにとどまらない。JAグループ内で急激に危機感が高まっているのが人件費の高騰だ。岸田文雄内閣による「官製賃上げ」は、農協のライバルである地方銀行にも及んでおり、農協は人材争奪戦で劣勢にある。
岐阜県のJAぎふは23年、約50人の新卒学生らに内定を出したが、今年4月に入社したのはその半分だった。JAぎふ関係者は、「地銀が初任給を月額26万円に引き上げた。農協も22万円に上げたが、差を埋め切れていない」と悔しがる。
次ページでは、207農協が赤字に転落する衝撃的な結果となったJA赤字危険度ランキングの全国ワースト489完全版を大公開する。