“訳あり”な人が頼る
3人の闇医者

 西成「あいりん地区」に結核が蔓延するのには理由がある。前出・地元医療関係者が語る。

現実生活の痛みを忘れるのは酒が一番――自販機のそばで眠る人たちの心には、そんな絶望が隠れているのだろうか

「栄養状態が良くなく、生活が不安定、かつ日雇い労働者として建設現場やシェルターといった場所での共同生活の場での寝泊りの機会も多い。それで結核が蔓延しやすい」

 咳、痰、微熱が長く続く結核の症状も、「医療機関で診察を受ける」という習慣のない日雇い労働者やホームレスたちならば、「泥棒市(詳しくはこちら)で風邪薬でも買おうかいな…」で済ましてしまう。これが症状をさらに悪化させ、感染を拡げていく。

 もっとも早朝に路上で商われる「泥棒市」でも、風邪薬の代金は500円から1000円程度と、彼らからすると決して安い値段ではない。その額を薬代として出費するくらいなら、「酒でも飲んだほうがマシやで!」(地元ホームレス・本人によると50代)というのがもっぱらの声だ。

 これではとても真っ当な医療を受けることは考えられない。

 病気や怪我が重症化した場合、 “訳あり”の人は窮地に陥る。正規の医療機関では身元を明かす必要があるからだ。それができない彼らが頼るのが、「闇医者」だ。

 地域住民らの話によると今、あいりん地区には3人の闇医者がいるといわれる。この闇医者は、かつて医師免許を持っていたが何らかの事情で医師免許を剥奪された元医師や、現役医師がこっそりと医業を行う2つのケースにわかれる。どちらも医者としての腕は確かだという。

 だが、この闇医者への受診は、諸説あるものの、「薬代込みで1回の診察で1万円。手術が必要となれば5万、10万円という単位で受診料は変わってくる」(前出・地元ホームレス)というから、経済的に逼迫している日雇い労働者やホームレスの受診は難しいのが現状だ。

「たとえ保険証がなくとも『無料低額診療』という制度がある。体調が良くないと思えば、すぐに病院に駆け込んでほしい」(大阪市本庁係長)。行政側とて、ただ現状を放置しているわけではなく、こうした対応メニューを用意している。しかし、行政や地元支援NPOですら把握が困難な、住民登録をしていない日雇い労働者やホームレスにこの声ははたして届くのだろうか。

 社会の片隅で身元を隠しながら生きている、あいりん地区の“訳あり”住人たち。生まれた環境ゆえに十分な教育も社会性も身につけられなかった彼らに対しては、ただ支援メニューを作るだけでは到底役に立たない。それでも日々、彼らに支援の手を差し伸べる関係者たちの努力には頭が下がる思いがした。

 あいりん地区の問題は、日本が抱える貧困問題、それも最底辺の人たちの窮状に他ならない。貧困問題を放っておくと、どういった事態になるのか、政治家たちにも目を向けてもらいたいと強く感じた。

(フリージャーナリスト 秋山謙一郎)