売春島や歌舞伎町のように「見て見ぬふり」をされる現実に踏み込む、社会学者・開沼博。そして、大阪・飛田新地の元遊郭経営者であり、現在もスカウトマンとして活躍する杉坂圭介。『漂白される社会』(ダイヤモンド社)の刊行を記念して、「漂白」されつつある飛田の現在・未来をひも解く異色対談。
最終回は、飛田で働く「おばちゃん」「女の子」「親方(経営者)」が街を去っていく理由に迫りながら、現役スカウトによって「漂白」が進む飛田新地の10年後が語られる。

引退した女の子が「おばちゃん」に転身

開沼 本を読むと、飛田にとって「おばちゃん」の存在がとても重要だと感じます。おばちゃんの現状、また、おばちゃんを辞めた方はどうされていますか?

杉坂 もうね、辞めたおばちゃんは、年金を貰う、生活保護を受ける、子どもを産んで世話になる方がほとんどだと思います。昔は、1日3万、4万持って帰っている人もいたんですけど、いまは正直、持って帰れても1万か2万じゃないですか。

 最近になって聞くと、おばちゃんの保証が昔は1日働いて1万くらいはあったんですけど、いまは保証を出さない店も多いらしくて、朝から働いて3000円のおばちゃんもいるらしいですからね。貯金できているおばちゃんはいないんじゃないですかね。

開沼 「おばちゃん」という響きからも若い方はあまりいないように感じますが、新しいおばちゃんはどのように確保するんですか?

杉坂圭介(すぎさか・けいすけ) 大阪府出身。繊維製品卸問屋勤務を経て、飛田新地の料亭経営者へ。10年間店の経営に携わった後、名義を知人に譲り現在女の子のスカウトマンとして活躍している。著書に『飛田で生きる 遊郭経営10年、現在、スカウトマンの告白』(徳間書店)がある。
現在、次回作を執筆中。年内発売予定。

杉坂 おばちゃんのほうこそ、基本的には横のつながりなんです。メイン通りの女の子がお年を召してばばあ通りに行きますよね。で、ばばあ通りのほうでも「そろそろ自分やばいんじゃないかな」となったら、そこからおばちゃんに変わるんですよ。

 仲良かったおばちゃんに相談して、「おばちゃん、そろそろ私おばちゃん商売かなぁ」「じゃあ、どこどこの店紹介してやるよ」とこんな感じです。突然、外部から来るのはめずらしいですね。ほとんどが卒業生です。

開沼 経験者だからこそ勝手がわかる部分もあると。

杉坂 親の心子知らずではないですけど、おばちゃんになってはじめておばちゃんの苦労がわかるってみんな言いますよ。それまでは、おばちゃんに「あーせえ、こーせえ」言ってた女の子が、今度は言われる側ですから(笑)。若いおばちゃんだと40歳くらい、30代の人もいるんじゃないですかね。ただ、全体的には60代でしょうね。

開沼 飛田で働く女の子がいる限り、おばちゃんはいなくならないと。

杉坂 どうなんでしょうね。いまは20代をメイン通りで過ごして、30代をばばあ通りでと、長く飛田で過ごす女の子も減ってきてますからね。結婚するから20代で辞めるというのが多いですから。

 ただ、30歳、40歳まで主婦をやって、そこで離婚して母子家庭になったらばばあ通りに戻ってきたり、もうちょっとしてから人生やり直すためにおばちゃんになったりとか。そんときに、当時のおばちゃんや経営者さんに電話したりもあるんじゃないですかね。