勝ち残る企業を創る鍵は「黄金のループ」にある。黄金のループとは、(1)「経営者品質」、(2)「社員品質」、(3)「商品・サービス品質」、(4)「顧客・社会満足品質」、(5)「業績品質」、(6)「株主満足品質」であり、この6つの要素がステップを踏んで循環しているという。その起点となる「経営者」がよくなれば、黄金のループの2番目、社員の質は必然的に高まる。
ダイヤモンドはダイヤモンドにより磨かれ、
人は人により磨かれる
人間力(マインド)形成は、余人から強い影響を受ける。硬度の高いダイヤモンドは、さらに硬度の高いダイヤモンドでしか磨けない。人は自分を磨こうと思ったら、自分より優れた人との触れ合いが決定的な効果をもたらす。社員がダイヤモンドの原石であれば、社員は、経営者という硬度の高い一級品のダイヤモンドによってしか磨けないのだ。
社員は、経営者とのわずかな触れ合いからでも大きな影響を受ける。触れ合いは、広義の教育機会と言い換えてもよい。薫陶を受ける場である。経営者の社員に対する教育機会とは、一つきわめて端的な例を挙げるならばあいさつである。
経営者が、ひと言短い言葉をかけるだけでも、職場のムードをがらりと変えることができる。私は、現役の経営者時代、社内で交わされる「おつかれさま」というあいさつをご法度にして「お元気さま」に変えたことがある。
同じ会社の人間が昼に会ったとき、「おつかれさま」をあいさつにしている会社は多い。また、社員どうしのメールのやりとりの際、冒頭のあいさつは「おつかれさまです」とせよと指南するビジネスマナー本もある。これはバカな話だ。会うたび、メールを交わすたびに「おつかれさま」では、疲れてもいない自分たちを、疲れたと暗示にかけてしまう。これでは溌剌とした職場にならない。
そこで私は「おつかれさま」を社長命令(?)で「お元気さま」に改め、率先して「お元気さま」と声をかけ続けたのである。言霊というが、言葉には霊がこもっている。おつかれさまで意気消沈気味になっていた社員は、自らお元気さまと声を出すことで自然に活気づいてきた。あいさつによって、社員品質(マインド)にひと磨きをかけたのである。
ミーティングも教育機会として大いに活用した。私は、何社かで社長を務めたが、社長に就任したときには、必ず「何でも話そう会」を開催した。「話そう会」とは、社員全員がいくつかのチームに分かれ、毎月定期的に時間を決めて行うフリートーキングの会である。目的はスピークアウト(率直に物をいう)の習慣づくりであった。
率直に物がいえる場というのは、同時に、だれの発言であっても、積極的に耳を傾ける場でもある。つまり、お互いがお互いの意見の違いを認め合うための訓練の場でもある。
当然、経営者である私も、たとえ相手が新入社員であっても、社員の話に耳を傾ける積極的傾聴を心がけた。これらは経営者による「教えない教え方」である。