「スピード」がすべてを決める
GVの投資先の多くが、スタートアップである。スタートアップとは、新しいイノベーションやビジネスモデルをもとに、急速な成長とイグジット(株式公開や売却など)をめざして立ち上げられた組織をいう。GVでも投資先の300余社のうちの数十社がイグジットを果たし、大きな利益をもたらしている。パートナーはそうして得られた利益の還元を受ける、投資家としての側面ももっている。
スタートアップにとっては、スピードこそが命であり、武器である。難しい問題に短期間で解決策を出し、ブレークスルーを果たすことができれば、大きなアドバンテージになる。また、スタートアップは成長スピードが速いからこそ、最初のベクトルを正しく定めることがカギになる。初めの方向性がわずかでもぶれていると、誤った方向に一気に進み、そこでゲームオーバーということになりかねない。
スプリントはそんなスタートアップにとって、超短期間で一番重要なことを見きわめ、いつかではなく「いま」答えを出す手段になる。
スプリントはサヴィオーク、ブルーボトルコーヒー、スラック、フィットスター、エアビーアンドビーなどのいまをときめく新興企業で使われている。グーグル内でもGmailやChromeなどのプロダクトの開発に役立てられているほか、フェイスブック、マッキンゼー・アンド・カンパニーなどの大企業や国際機関、非営利団体、学校などでもくり返し用いられ、成果を上げているのだ。
スプリントのプロセス自体も、100回を超える迅速な施行を通して、絶え間なく改良と精緻化が重ねられている。デザインスプリントやデザイン思考に関する類書はいろいろあるが、スプリントの開発者自身が、その最新バージョンを手取り足取り説明したものが本書なのだ。
最小限の時間で最大限の成果を出す
スプリントは、製品・サービスの開発のためだけのものではない。仕事に対する姿勢や考え方を、つまり一番大事なことに集中して、最小限の時間で最大限の成果を出す方法論を教えてくれるプロセスなのである。
たとえば、リスクが高いとき、時間が足りないとき、何から手をつければいいのかわからないとき。そんなありがちな状況で、スプリントは大きな助けになる。実際、スプリントをきっかけに、仕事のやり方が根本的に変わったという声が続々と寄せられている。
またスプリントのテクニックには、小さな課題や一人での作業にも役立つものがたくさんある。ちょっとしたことを決めるとき、問題に行き詰まったとき、抽象的なアイデアを具体化したいときなどに応用できるアイデアが満載されている。
それに本書は純粋に読み物としてもおもしろい。可能性の限界を押し広げようとして奮闘するスタートアップが、わずか5日間という短期間で果敢に問題にとりくみ、答えを出していくというスピード感、グルーヴ感を楽しんでいただければ幸いである。
(ジェイク・ナップ他著、櫻井祐子訳『SPRINT 最速仕事術』(ダイヤモンド社刊)の訳者あとがきより)