全米で話題沸騰中の21の睡眠メソッドを集約した、『SLEEP 最高の脳と身体をつくる睡眠の技術』。本連載では同書の中心的なメソッドを紹介していきます。食事、ベッド、寝る姿勢、パジャマ――。どんな疲れも超回復し、脳のパフォーマンスを最大化する「睡眠の技術」に注目です!

「第二の脳」である腸を整えて
快眠する

睡眠の質には食べたものが大きく影響する。
食べものを単なる食べものだと思ってはいけない。食べものは情報だ。何かを食べれば自動的に体内で処理され、食べたものがどういう種類のもので、どんな栄養素が含まれている(いない)かによって、身体、健康、睡眠の状態が決まる。

それだけではない。良質な睡眠がとれるかどうかは、お腹のなかの環境に左右される。セロトニンは、腸粘膜にある腸クロム親和性細胞によって生成される。生成されたセロトニンが体内に分泌されると、腸の運動が活発になる。文字どおり、消化の働き全般を助けているのだ。
セロトニンが睡眠に深くかかわっているのは、快眠ホルモンであるメラトニンの原料であることからも明らかだ。とはいえ、消化の働きを助けるという意味でも、セロトニンが脳や睡眠に与える影響は私たちが想像する以上に強力だ。

近年の研究により、人間の腸は神経組織の塊で、脳内と同じ神経伝達物質が30種類存在することが明らかになった。食べたサンドイッチを体外に出す手伝いをする以外にも、実にさまざまな働きを担っているという。
脳のように大量の神経組織があることが明らかになり、腸は「第二の脳」の称号を手に入れた。正式名称は「腸神経系」であるこの第二の脳には、約1億個の神経物質が存在する。この数は、脊髄はもちろん末梢神経系に比べても多い。私たちのお腹は、微積分を易々と解ける知性がありながら、それ以外のたくさんのことに専念しているというわけだ。

しかし、何といっても注目すべきは、腸には脳の松果腺の400倍以上のメラトニンが存在するという事実だ。調査によると、松果腺を手術で切除した後ですら、腸には切除前と同レベルのメラトニンが存在したという。腸内の組織(とりわけ腸内分泌細胞)は、メラトニンを生成する能力にそれほど秀でているのだ。このメラトニンという快眠を約束してくれるホルモンは、調子がよければお腹のなかに適切な量が生成される。要するに、腸が健康でちゃんと機能することが、睡眠の質に大きく影響するというわけだ。

腸の働きのとりまとめ役という重責は、迷走神経が担う。迷走神経は、腸に限らず心臓や肺といった臓器と脳を直接つなぐ。そして、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)の研究者により、迷走神経を通じて運ばれる食物繊維の情報は、約90パーセントが腸から脳へ渡り、その反対はないという意外な事実が明らかになった。腸内環境と腸の健康は、脳の機能を支配するという重要な役割を果たしているのだ。腸で起きたことは必ず脳まで伝わる。

腸内フローラは
生活リズムの影響をうける

UCLAの研究では、腸内に何兆個と存在する細菌が第二の脳である腸神経系と絶えず情報をやりとりしていることも明らかにされている。また、カリフォルニア工科大学の研究者は、セロトニンの生成に重要な役割を果たす細菌が腸内に存在すると発表した。私たちの体内には細胞の10倍の数の細菌が生息していて、そのほとんどが腸に住みついている。

だからといって怖がることはない。細菌とはそういうものだ。人間は細菌と共生できるように進化を遂げてきた。正常なバランスが保たれていれば、免疫系や消化器系の管理をはじめ、睡眠の正常化も助けてくれる。

細菌でも「善玉菌」と呼ばれるものは、健康の維持に大きく貢献してくれる。一方、「日和見菌」と呼ばれるものは、場合によっては身体にさまざまなダメージを与える。とはいえ、日和見菌にも体内で果たす役割はある。大切なのは、善玉菌に対する日和見菌の比率だ。身体の舵を任せるなら、信用できるやつがいい。悪いやつにのっとられれば、ファストフードのドライブスルーにばかり連れて行かれ、夜になれば暴れて眠らせてもらえない。

腸内細菌はお花畑のように群れていることから、腸内フローラとも呼ばれる。睡眠のリズムが不規則になると、腸内フローラに何が起こるのか。学術誌『セル』に掲載されていた研究によると、人間の体内時計は細菌のバランスに影響を受けるという。日常生活で普通に起こりうる時差ボケなどの出来事を経験するだけで、腸内毒素症が生じ、代謝異常を招くのだ。

また、腸内細菌に独自の体内時計があり、毎晩決まった時間に「衛兵交代式」を行うことで、腸の管理を信用できるやつに引き継ごうとしていることも明らかになった。だから、徹夜したり、寝不足になったりすれば、日和見菌に腸を(ひいては脳も)のっとられる機会を生むことになるのだ。