(写真はイメージです)

 高倉健ほど日本刀が似合う俳優はいないだろう。事実、高倉健は日本刀をこよなく愛し、自身も数振り所持。刀匠の作品を親しい人に贈ることもあったという。高倉健と個人的な交流があった植草信和氏が健さんの日本刀愛に迫った。

 僕が初めて健さんと会ったのは、1975年だった。当時僕は映画雑誌「キネマ旬報」の編集部に属していて、そこでの「新幹線大爆破」の座談会に健さんが出席してくれることになったのだ。僕は恐れ多くも司会を仰せつかった。

 当日、喜び勇んで東京都練馬区大泉の東映撮影所に出向いた僕を、健さんは所内の自室に招いて、珈琲を淹れてくれた。大スターが目の前で、しかも手ずから淹れてくれたことに感激し緊張していたので、残念ながら味の方はさっぱりわからなかった。健さんの俳優仲間の八名信夫さんは、ドキュメンタリー映画「健さん」のなかで、「あんな不味い珈琲はなかったよ」と明言しているのだが……。

 その後、82年に写真集『高倉健 望郷の詩』(芳賀書店)の編集を担当することになった。

 健さんの魅力を刻印し、健さんが歩んできた半世紀が浮かび上がってくるような本にしたい、そんな取りとめのないことを考えて何度か打ち合わせをした。