ある日、突然妻がこう言いだしたとしたらどうだろう。
「私たち、そろそろ本気で不妊治療に取り組んだ方がいいと思うの……」
震災で被災した女性が無事元気な赤ちゃんを出産したニュースに、涙した人は多かったはず。「うちも早く」と考えた夫婦もいたことだろう。
だが、結婚したからといって、誰でも自然に子どもを持てると思ったら大間違い。今や不妊に悩むカップルは10組に1組とも、8組に1組とも言われる時代だ。不妊治療を手掛ける医師の間では「実情はもっと多いのでは」と囁かれているとか。
さりとて、気軽に取り組むにはあまりに「大変そう」な不妊治療。果たして踏み切るべきか、否か。いまどきの不妊治療の実情について、NPO法人Fine理事長の松本亜樹子さんに聞いた。
<今回のお題>「不妊治療は是か非か」 松本亜樹子さんの話
「あなたも検査して」と妻が言い出す日
こんな場面を想像してみてほしい。
結婚したもののなかなか妊娠できない……焦った妻は意を決してレディースクリニックへ。彼女は帰宅するなりこう言い出した。
「ねえ、今度はあなたも一緒に行って。検査も受けてほしいの」
内科や外科ならともかく、産婦人科を受診するなど彼にとってはまさに想定外。まして生殖能力について検査されるなんて屈辱そのものだ。そこで言い放つ。
「なんでそんなことまでして子どもを作らなきゃいけないんだ。それに、不妊の原因なんてたいてい女性側にあるんだろ」
かくして夫婦の話し合いは大喧嘩に発展してしまうのである。松本さん曰く、
「脳の構造や機能から言って、最初から父性本能が備わっている男性は多数派ではないよう。ですから、『どうしても子どもが欲しいから、積極的に不妊治療を受ける』という人は少ないんですね。子どもが育ってくるとだんだん愛情が湧いて、母親以上に親バカになってしまうケースは多いようですが……。
おまけに、不妊治療といえば何やらドロドロしたイメージが強い。それでついドン引きしてしまうわけです」
思い切って夫婦で不妊治療を始めても、まだまだ山あり谷ありの日々が続く。第一、妻の感情が不安定になりがちだ。ホルモンがアンバランスになり、わけもなくイライラしたり落ち込んだり。夫はどうしていいかわからず、ただオロオロするばかり――。