崇さんが私のところに来たとき、最初は妻の不満や悪口、愚痴を言うばかりで、一切、彼女のことに触れなかったのですが、何度か話を聞くうちに隠しきれなかったようで、途中から彼女の存在を明らかにしました。彼女と一緒になりたいから「妻と離婚したい」というのが崇さんの本音。崇さんは彼女に背中を押されていたのです。「彼が早く奥さんと離婚してくれればいいな。そうすれば私と一緒になれるのに」と。

 このように崇さんは「離婚したいけれど、離婚できない」妻と「結婚したい」彼女の板ばさみに遭い、精神的に追い詰められていました。「一発逆転」を狙うギャンブラーと化す寸前だったのです。

離婚希望の男性が好んで使う
「既成事実」は印籠になるのか

 私の経験上、離婚希望の男性は切羽詰まれば詰まるほど「既成事実」という言葉を好き好んで使います。先に「既成事実」を作ってしまえば、もう後戻りできないのだから、妻はぐうの音も出ないだろう。だから妻は間違いなく離婚に応じてくれるはず。妻の気持ちなんてお構いなしに「既成事実」がまるで黄門様の印籠かのように思い込み、猪突猛進するのです。

 ここで言う既成事実とはお察しの通り「彼女の存在」のこと。崇さんは離婚を渋る妻に対し、「結婚を考えている彼女がいるんだ」と明かし、「いくら待っても俺は戻ってこない。あきらめてくれ。お前(妻)より彼女が好きなんだ」と真顔で口にしようとしていたのです。

 崇さんは最初のうち、彼女の存在を「隠した方が」離婚しやすいと思っていたそうです。その心理の背景には妻への罪悪感、後ろめたさはもちろん、ただでさえ、離婚の件で妻を傷つけているのに、彼女のことを話せば、余計に傷つけてしまうという配慮や気遣いもあったのでしょう。さらに言えば、「彼女のことを根掘り葉掘り聞かれたくない」という自己防衛本能も働いていました。それなのに途中から「白状した方が」離婚しやすいと考え直したようです。

 しかし、このような唐突なカミングアウトで、すんなり離婚できると思うのは大きな間違いです。精神的に追い詰められ、パニック状態に陥ったとき、「ふと思いついたアイデア」が、なぜか素晴らしい妙案に思えるのは、「仕事のストレスをパチンコで晴らす場合」と同じ原理です。

 この作戦はギャンブルと似たり寄ったりなので、「イチかバチか」です。しかし、崇さんはそのことを知りません。その姿は大当たりを期待し、パチンコ台に座り続けるのと一緒です。