今年3月に大きな話題となった旅行会社・てるみくらぶの倒産。同社の倒産で浮き彫りになったのは、格安旅行の危うさとブラックな労働環境だ。しかし、過酷な労働環境に関しては、同社に限ったことではないという。そこで、かつて某大手旅行代理店に勤務していた元社員にその実情を聞いた。(フリーライター・田中ハルカ)
円形脱毛症、リスカ、流産…
追いつめられる社員たち
自由なツアー内容や格安旅行が楽しめることで人気の大手旅行代理店A社を最近、退社した岡田真由さん(仮名・27歳)。新卒でA社に入社した彼女が店舗スタッフとして体験したのは、社員全員が疲弊しきっている真っ黒な労働環境だった。
「とにかく労働時間が長いんです。1日8時間の勤務に4時間の残業が毎日課せられ、そのうち42時間はみなし残業なので残業代が出ません。それでも仕事が終わらない場合は、勤怠システムのステータスを『退社』にして残業。もちろん残業代は出ませんが、上司に残業時間の長さを指摘されないようにするには、そうするしかありませんでした」
また、定時出社よりも1時間早く仕事をはじめる朝残業を毎日行い、月に1~2日、多ければ月6日もの休日出勤をこなした。実質、月に1日しか休めない社員もザラだという。いずれも残業代は出ない。
「休みもなく、働き詰めの社員は疲労困憊です。疲れがピークに達しているので、先輩スタッフは常にイライラ。そんな状況なので、新入りは分からないことがあっても質問できず、ミスをすれば『よけいな仕事を増やしやがって!』と、激怒されるんです。イスを蹴飛ばしたり、壁を殴ったり……とにかく職場の雰囲気は最悪でした」
新人はまともな教育が受けられず、研修中に退職する者も多い。先輩たちの余裕がない背中に、自分の未来の姿を見てしまったのかもしれない。
「辞めずに一人前になったとしても、事態が好転するわけではありません。私の周りにはストレスから円形脱毛症になってしまった20代の女子や、社会人になってからリストカットをするようになってしまった子、妊娠中にハードな仕事をしたために流産してしまい、今も立ち直れていない社員……追い込まれている同僚をあげれば、キリがありません」
この状況を聞いて「そんなにツラいなら会社を辞めればいいのに」と、感じる人もいるかもしれない。しかし、休みを削られ毎日残業している社員たちに、転職活動をする時間は微塵も残されていないのだ。「みんな、ストレスを抱えたまま仕事をしているんです」と、岡田さんは嘆く。