ニューヨークと東京を往復し、世界中の書籍コンテンツに精通するリテラリーエージェント大原ケイが、トップエリートたちにいま、読まれている話題の最新ビジネス書を紹介する好評連載。第8回目は、「健康本」のトレンドについて。

アメリカ人は健康本にも明確な「結果」を求める

 どんな国でも、どんな言語にもあるのが「長寿の秘訣」に関する本かもしれない。メソッドは違えども、誰しもが「元気で長生き」したいのは万人の夢なのだろう。高齢の人が書く「メモワール(回想録)」は波乱万丈の人生であっても、平々凡々な毎日を過ごしてきた人でも示唆に富んでいて、「自分も元気で頑張ろう!」と思えるコンテンツが多く、書店で笑顔の高齢者の表紙の本を多く見かける。

 アメリカで出る本に関していえば、長生きしたというだけではなく、そのコツを伝授できるものや、若い人でもできないんじゃないかというような波乱万丈のドラマチックなものが求められるようだ。「◯◯でガンが治る!」「◯◯だけで病気知らず!」と特定のサプリや食物を勧めるのは論外、本に従ってやってみてダメだった人からすぐに訴訟を起こされてしまうのだから。

 ダイエットの本にしても、健康法の本にしても、これでもかというほどデータを羅列して理詰めで攻めてくるのがアメリカ流。なにしろこの国には国民皆保険制度がないので、病気になるということは、経済的にも大打撃を受けるということ。盲腸の手術にン百万円の請求がきて自己破産、ということが実際に起きているのだ。

 「自分の健康は自分で守らなければならない」という厳しいオキテがあるので、読んで「あ~、面白かった」とホワ~ンとした気持ちになるぐらいじゃダメ。「本を買って読む」という、時間とお金をつぎ込んだ「投資」には、ちゃんとしたリターンを求める。

自分の体を張って実験したダイエット本がブームの予感

 そんなアメリカで今春、大手エージェントのウィリアム・モリス・エンデバーがイチ推しの企画として紹介し、出版社間で熾烈なオークションとなったのがピーター・アティア著の『ロング・ゲーム』という本だ。

 著者のピーター・アティアは、外科医として10年近く勤務した後に一転してマッキンゼーに転職、そして再びバイオテクノロジー会社に勤めたと思ったら、今度は自分で栄養学の研究ベンチャーを立ち上げたという、異色の経歴の持ち主だ。

 ティーンエイジャーの頃から筋トレが好きで体を鍛えてきたにもかかわらず、ミドルエイジにさしかかって自分がメタボ体質になって「これはおかしい!」と、運動と栄養の関係を自分の体を張って実験したというエピソードも面白いが、この本は医者とデータアナリストだった自分の経験と、異色のキャリアで培ったコネを駆使して研究チームを作り、全ての目標を「長生き」とした場合に、人間の行動をどう調整するかという総合科学の本だ。