トップエリートたちにいま、読まれている話題の最新ビジネス書を紹介する好評連載。第6回目は、国によって違うベストセラーの特徴と、日本のビジネス書が世界でヒットする可能性についてお届けいたします。

ヨーロッパでビジネス書は売れない!?
国によって違うベストセラーの特徴

 「ビジネス書」というのは、それこそ世界中で刊行されているが、どんなビジネス本が売れているのか、他のジャンルに比べてどれだけ読まれているのかという点ではそれぞれに「お国柄」が現れているようだ。

 欧米のブックフェアで出会った編集者の人たちの話や、それぞれの国のベストセラーリストから、紹介してみよう。

 翻訳書の版権を扱う大規模なブックフェアが毎年催されるロンドンやフランクフルトでは、これから出てヒットしそうなビジネス書がお披露目される場になるのだが、アメリカの出版社から刊行予定のタイトルが圧倒的に多い。

 「ウォルター・アイザックソンがスティーブ・ジョブスの評伝を書いている」とか、「マルコム・グラッドウェルの次なるバズワードはコレ!だ」とか、まだ原稿が書き上がってもいないうちから翻訳版をどの出版社が出すのかを巡って熾烈なバトル…の代わりにオークションが行われる。

 各国のブックフェアを訪れたついでに地元の書店を覗いてみても、ヨーロッパではビジネス書がずらっと平台に並べられている様子を見た記憶がない。

経済が成熟してしまった国よりも、起業家の可能性が無限にある新興国の国々でこそ、ビジネスのノウハウが必要とされているからなのかもしれない。

 各国のビジネス書ベストセラーの傾向で言えば、ビジネスよりバカンス重視のフランスだと、ティモシー・フェリス著『「週4時間」だけ働く。』(青志社)がロングセラーとなっていて、さすがだなと思わせる。なにしろ、トマ・ピケティの『21世紀の資本』(みすず書房)でさえ、翻訳された英語版が話題になってからフランス人がようやく読み出したくらいだ。

『21世紀の資本』はドイツでもベストセラーとなったが、ドイツではビジネス書といえば、社内の組織をどう変えれば効率が上がるか、どうすれば自分のスキルを最大限に活かせるか、組織内でどう交渉すれば自分の評価が高まるか、といったタイトルが多い。

 何においても「効率」を追求するのがドイツらしい。ビジネス書に限らず、ドイツでは急に何かがパッと出てパッと売れるものは少なく、どちらかというと、いったん気に入った本が長く愛され、大事にされる傾向がある。

 著者で言えば、『人生を変えた贈り物』(成甲書房)のアンソニー・ロビンスや『7つの習慣』(キングベアー出版)のスティーブン・コヴィーがそうだし、ロバート・キヨサキの『金持ち父さん 貧乏父さん』(筑摩書房)が今も健闘しているぐらいだ。

 他国のビジネス書は読んでも、ドイツ人が書いたビジネス書がほとんどないのはナゼだろう?と以前から不思議に思っているのだが。

 これがアメリカとなると、ありとあらゆるジャンルのビジネス本が氾濫していてその傾向すら掴みにくいが、リーダーシップについて書かれた本や、働き方の本でも、とにかく何か「新しい発想」と呼べるものが一目置かれるようだ。

中身を見れば今まで言い尽くされてきたことの焼き直しであっても、新しい視点と流行りそうなバズワード、そして著者にはTEDトークがこなせるようなプレゼン力が求められる。

 総じてビジネス書が好きで、よく読むのが日本人とアメリカ人といってもいい。この2ヵ国に共通するのは、就労時間が長いことと、有給消化率が低いこと、だろうか。要するに「仕事が好き」「仕事に重きを置いたライフスタイル」ということだろう。

 同じような傾向がある所として、カナダやメキシコなどアメリカ大陸の国と、中国、香港、台湾、韓国などのアジアのテリトリーがこれに続く(翻訳書の世界では、国家としては同じ国でも、使われて言語が違う場合、違う「テリトリー(言語圏)」と数える)。