ニューヨークと東京を往復し、世界中の書籍コンテンツに精通するリテラリーエージェント大原ケイが、トップエリートたちにいま、読まれている話題の最新ビジネス書を紹介する好評連載。第4回目は、話題のビジネス本2016年版について。
世界のビジネスマンが年末年始に読む本とは?
年末になると海外の雑誌や新聞で「今年のベスト本」と銘打ったリストが登場します。それを見てエグゼクティブたちは、読み逃していたタイトルがないかチェックし、年末年始の休暇を利用して読むのでしょうね。
ということで、ざっとファイナンシャル・タイムズ紙、Inc.誌、フォーブス誌、フォーチュン誌、エコノミスト誌、ブルームバーグ・ビジネスウィーク誌などを見渡して、複数回名指しされていた本を紹介してみましょう。
SPRINT: How to Solve Big Problems and Test New Ideas in Just Five Days(「スプリント:問題解決や新しいアイディアをたった5日間で試すには」2017年春ダイヤモンド社から刊行予定)ジェイク・ナップ他著
会社でなにか新しいことをやろうとしても、予算も時間もかかると思うとなかなか実行できないもの。みんなの総意が必要とされがちな日本の企業だとなおさら腰が重くて結局取り入れられなかった事案、誰もが思い出せるのではないでしょうか?問題の解決案や新しいビジネスのアイディアが浮かんだ場合、どうやって短期間でそれを試せるか、こんなことをやってみた会社がある、というエピソード満載で読んでいて楽しいイチ押しの本がこれ。著者は全員、今やGMよりGVと聞けば、起業家なら誰でも垂涎する「グーグル・ベンチャーズ」に関わっていた人たち。彼らが編み出した「デザインスプリント」を実行すれば、新商品の開発を5日間でシミュレートできる、というのですからこれは目からウロコ。
ONLY HUMANS NEED APPLY: Winners and Losers in the Age of Smart Machines(『AI時代の勝者と敗者』日経BP社刊)トーマス・ダベンポート著
機械が支配するディストピアな遠い未来を想像してしまいそうですが、昨今すでに無人自動車、無人ドローンの実験のニュースが聞かれるので、これはウカウカしていられないかも。全て機械に任せる時代がやってきたら、自分が勤めている会社について、あるいは自分のキャリアについて、どこまで本気で心配すればいいのか、今からどう準備すればいいのか?を指南してくれる一冊。
SUPERBOSSES: How Exceptional Leaders Master the Flow of Talent(『スーパーボス:抜きんでたリーダーはどのように才能を見極めるのか』日経BP社刊 )シドニー・フィンケルシュタイン著
優秀な人材がどんどん他企業に引き抜かれ、移動するアメリカの企業では、どんな分野の産業でも、優秀な人はみんなあの人の元で働いたことがあるよね、という場合があります。自分だけが偉くなっていくだけでなく、部下の中から伸びしろの大きそうな社員を見抜き、ベストな成果を引き出すだけでなく、その人のキャリアを積み上げる手助けができる「すごい上司」200人にインタビュー。
DEEP WORK: Rules for Focused Success in a Distracted World(『大事なことに集中する:気が散るものだらけの世界で生産性を最大化する科学的方法』ダイヤモンド社刊)カル・ニューポート著
なんやかんやと外野のノイズが邪魔になって仕事に集中できない人、頭を使わなければいけない大事な仕事があるときにどうすればいいのか、効率を研究し尽くしてきた教授が脳神経に負担のかかる「頭仕事」に集中するための方法を伝授。
THE MAN WHO KNEW:The Life and Times of Alan Greenspan (「その男は知っていた:アラン・グリーンスパンの人生とその時代」) セバスチャン・マラビー著
今年ファイナンシャル・タイムズ紙がマッキンゼーと共同で授与するビジネス本大賞に選ばれた作品。現役時代は経済界のヒーローとされた米連邦準備制度の元会長、アラン・グリーンスパンも今では経済危機を予見していたのに防げなかった悪玉とされることもありますが、本当にリーマン・ショックが起きたのは彼のせいだったのかをつぶさに描く評伝。
GLOBAL INEQUALITY: A New Approach for the Age of Globalization(「グローバル格差:グローバル時代への新しいアプローチ)ブランコ・ミラノヴィッチ著
グローバリズムによって生まれたのは格差社会とはよく言われることだが、どういう仕組みで不平等や格差が生じるのか、そのメカニズムについてはよくわかっていないことが多い。ルクセンブルクとニューヨークの大学で研究を重ねる著者が、ちょっと穿った説を披露。アジアやヨーロッパの先進国で、特に中産階級がいなくなる「エレファント・カーブ(象曲線)」の説明を試みる。
豊かな民主主義の国で、いかにポピュリズムと金権政治がはびこるのか。そして結論としては、すぐに是正される未来は見えてこないと悲観的な説明が…。
ORIGINALS: How Non-Conformists Move the World(『ORIGINALS 誰もが「人と違うこと」ができる時代』三笠書房刊)アダム・グラント著
ウォートン・ビジネススクールの天才教授が母校に戻り、どうすれば危険を冒さずに現状を打ち破るチャレンジができるのか、を行動科学の視点から説く一冊。近代100年史で、マーティン・ルーサー・キング牧師から、グーグルの創設者コンビまで、「唯一無二」と呼ばれる人の内面を覗き見る。
この他、次点としてケヴィン・ケリーの新著「THE INEVITABLE」(『〈インターネット〉の次に来るもの―未来を決める12の法則』NHK出版刊)、このコラムでも紹介したアンジェラ・ダックワースの「GRIT(『やり抜く力』ダイヤモンド社刊)」もよくリスト入りしていました。いわゆるビジネス本ではないものの、典型的なトランプ支持者層の自分の半生を描いた、話題の「HILLBILLY ELEGY(田舎者の哀歌)」(J・D・ヴァンス著)や、ブルース・スプリングスティーンの自伝「BORN TO RUN」を挙げているメディアもいくつか見受けられました。年明け以降、日本語版が登場する本は今から楽しみですね。