そもそも、生命保険料控除にはどのような制度目的があるのだろうか。

 手許にある「租税法入門(十二訂版)」(川田剛著、大蔵財務協会刊)を見ると、現在、所得控除として認められているものは14種類あり、「これらの控除項目は、次のような目的で制度化されたと言われています」という説明の下に分類表が載っている(同書138ページ)。そのうち生命保険料控除は、「社会政策上の要請によるもの」という項目に分類されている。

 生命保険料控除は、制度化された当時、貯蓄が不十分な家庭において稼ぎ手が急死するような場合に備えて、生命保険に加入しておくことは望ましいとする、生命保険の利用を促すパターナリズムがあったのかもしれない。

 こうした意義は、現在でも「多少は」存在するかもしれない。しかし、ただでさえ国民が生命保険に加入しすぎている我が国において、税制上の優遇措置を講じてまで生命保険の普及を後押しする必要が未だにあるのかと問われれば、首をかしげざるを得ない。

 それでは、生命保険料控除はもう必要ないのだろうか。

 「必要ない」と言い切ると、あれやこれやと「意味のある場合」を持ち出す人が出てきそうで面倒だから、少しトーンを落としてみよう。

 生命保険料控除は、他の多くの税制優遇措置の意義と比較した時、その相対的な必要性は乏しいように思う。

 それであれば、例えば生命保険料控除を廃止ないしは縮小し、その財源で長寿化時代に対応する上で必須と思われる確定拠出年金の加入可能年齢を60歳から70歳程度に引き上げるのはどうだろう。

 節税のメリットに対しては、納税者全体の負担が対応していると考えるべきだ。同じだけ負担をするなら、先の保険で手軽に節税するような行為をサポートするよりは、老後の経済的備えに対する自助努力をサポートする方が、納税者として気分が良いのではないだろうか。

 あるいは、浮かせた財源を昨今話題の教育費の無償化に向けて投入してもいいし、寄付金控除などを拡大するのもいい。もちろん、単に減税にあててもいいと思う。

 多数の営業員を抱える生命保険業界は選挙に際して影響力がある。政治的なパワーは案外強い。筆者ごときが「生命保険料控除の廃止ないし縮小」と唱えたところで、生命保険料控除はびくともしないはずなので、生命保険関係者は全く安心していて構わない。

 しかし、時に所得控除など社会の「ゲームのルール」の意味を考えてみることは重要だ。今回は、生命保険料控除の問題を考えてみて、改めてそう思った。気づかせてくれた明治安田生命保険には大いに感謝したい。

(経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員 山崎 元)