シリコンバレーから中東、アフリカ、そしてブラジルのスラム街まで、世界中のありとあらゆる国・地域で600社、1000人超の起業家を支援してきた「非営利ベンチャーキャピタル」、エンデバー。その稀有な組織を立ち上げたリンダ・ロッテンバーグによると、たとえシリコンバレーにいなくとも、胸に抱えたアイデアを実現し、成功するのに欠かせない3つの教訓があるという。
シェリル・サンドバーグも絶賛する著書『THINK WILD あなたの成功を阻むすべての難問を解決する』から、リンダが支援している起業家のひとり、レイラのケースをご紹介しよう。スラム育ちの彼女が、アルバイト暮らしから年商8000万ドルへの起業家として成功した理由とは?

境遇にも、周囲の声にも負けずに未来を切り拓いたレイラから学べることとは?

元マクドナルドのアルバイトから、数千万ドルを稼ぐ起業家へ

 レイラの話をしよう。

 レイラ・ベレーズはリオデジャネイロのスラム街で育った。母親はメイド。父親は用務員。1990年代初め、レイラはマクドナルドでハンバーガーを売っていた。だが、彼女には夢があった。

 自分のようなアフリカ系ブラジル人に合う、くせ毛用のヘアケア製品がないこと――レイラはそれを不満に思っていた。「貧しい女性だって、自分を美しく見せて誇りに思う権利があるはずだわ」。美容師で、義理の妹のジーカにレイラは言った。

 こうして1993年、商売もヘアケア製品についてもまったくの素人であるふたりは、レイラの家の地下室を“マッド・サイエンティストの実験室”に変えてしまった。そして、縮れたくせ毛を、美しいカーリーヘアに仕上げるシャンプーやトリートメントをつくり上げ、夫の髪を使って実験したのである。ところが、ふたりの夫の髪の毛は抜け落ちてしまった。

 レイラとジーカは実験室に戻り、試行錯誤を重ねてヘアケア製品を完成させ、ヘアサロンを開いた。薄暗い廊下の先にある30平方メートルにも満たない、お世辞にもお洒落とは言えない店である。「こんなみすぼらしい店に、客が来るわけないよ」。友だちは口々に言った。だが、ふたりは信念を貫いた。やがて、店は4時間から6時間待ちの女性客で溢れかえった。しかも、ふたりのヘアケア製品は客の髪質を変えただけではない。女性客は、レイラのおかげで自尊心が高まったと喜んだのである。

 わたしがこの話をすると、友人は決まってこう言う。「巷でよく聞く、マイクロファイナンスで成功した女性の話だね」。マイクロファイナンスとは、貧しい人が零細事業を立ち上げて運営するために、小口(マイクロ)の融資や保険などを提供する金融(ファイナンス)サービスを指す。

 だがレイラの場合、マイクロという言葉は似合わない。彼女の会社ベレーザ・ナチュラルは数年のあいだに、あちこちの“ヘア・クリニック”でいろいろなヘアケア製品を販売していた。そして2013年には、毎月10万人の顧客にサービスを提供し、2300人の従業員を抱え、毎年8000万ドルもの収益をあげていたのである

 それでは、レイラはどうやってそのとてつもない成功をつかんだのか。時給で働くマクドナルドのアルバイト店員から、数千万ドルを稼ぐフランチャイズ店のリーダーにどうやって上りつめたのか