週刊ダイヤモンド2017年6月10日号の第1特集は「会計&ファイナンス超理解」。特集では、財務3表の読み解き方から経営指標、ファイナンスまで分かりやすさを徹底追求した。松田千恵子・首都大学東京大学院教授は、特集内の関連書籍で示した『グループ経営管理からM&Aまで コーポレート・ファイナンス 実務の教科書』(日本実業出版社)の著者。元ムーディーズのアナリストで、経営コンサル業も務める松田氏は、企業グループの本社から事業部門まで幅広い人にファイナンススキルが求められる時代が到来したと説く。

──どのような経験から、ファイナンススキルが重要と考えるようになったのですか。

 私は以前、ムーディーズや旧日本長期信用銀行(現新生銀行)にいた頃から、財務やファイナンスの知識を使って仕事をしてきました。1990年代後半からムーディーズで事業会社の格付けをしていた際、企業のトップと話すことが多かったのですが、そこで「日本企業って何でこんなにファイナンスが分からないんだろう」と感じていました。

 今でも全然、ファイナンスに関する経験のない経営者が普通にいらっしゃいます。2000年前後の当時は今よりもっと多くて「営業一筋何十年だけど、財務3表は全然読めない。数字は弱いからね」などと言って済ませている人もいるほどでした。ROE(自己資本利益率)を見ている企業はほとんどなかったし、水準もすごく低かった。特にバランスシート(貸借対照表)を見ていない企業が多いことに驚きました。

 金融業界にとどまるより、事業や経営戦略のことを考えるのが面白いと思ったこともあり、2001年からは経営コンサルティングの道に進みました。以来、「ファイナンススキルを活用して事業会社を支援する」という路線は一貫しています。一言でいえば「CFO(最高財務責任者)アジェンダ」のような領域です。昔はCFOと聞けば、「経理担当役員のこと?」といった目で見られることすらありました。今ではさすがにそれはないにしても「経営に役立たせるために何が必要か」という認識はまだ薄い気がします。でもそれがないと、経営者としてどんどん生きづらい時代になっています。