自動車や油圧ショベルなどに欠かせない油圧機器の製造大手であるKYBの業績が好調だ。リーマンショック後に陥った最終赤字から一転、新興国の建機需要などを追い風に、昨年度は過去最高益を達成した。こうしたなか、今年5月には売上高を10年で倍増するアグレッシブな計画をぶち上げた。V字回復の軌跡と新たな挑戦の行方を探った。(「週刊ダイヤモンド」編集部 松本裕樹)

 東日本大震災時、高層ビルが立ち並ぶ東京・新宿で、ひときわ、揺れの小さかったビルがある。

  地上54階建ての新宿センタービルだ。2009年夏に耐震改修工事を行い、建物内に揺れを吸収するダンパーを約300本設置した。その結果、地震時の揺れは約2割減った。耐震設計の建物に比べ、揺れを2分の1~10分の1に抑えるとあって、すでに多くの施設でも導入が進んでいる。高層ビルはもちろん、タワーマンション、工場、学校のほか、寺院や能舞台など、さまざまだ。最近では東京スカイツリーにも導入された(表参照)。

 この「制震・免震ダンパー」で国内シェアの半分強を占めているのが、油圧機器製造大手のKYBである。

建機需要の回復で
過去最高益を達成

「なんとか供給量を増やしてもらえないか」

 今年3月、岐阜県可児市にあるKYBの工場には、建機メーカー各社の調達担当者が連日押しかけていた。

 毎年2月の春節明けからが中国の建機需要のピークだが、予想を上回る勢いで部品供給が追いつかなくなったのだ。

 KYBが生産するシリンダー、ポンプ、旋回用モーター、走行用モーター、コントロールバルブといった製品は、いずれも油圧ショベルのキーコンポーネンツだ。ところが、国内建機メーカーの中で、これらすべての機器を内製できるのはコマツだけである。

 その後、東日本大震災で日立建機の工場が被災したことなどもあり、いったんは需要が落ち着いたものの、「今月にも生産が間に合わなくなる」(廣門茂喜常務)と、早くも逼迫し始めている。

 KYBの事業はいずれも油圧製品で、自動車向け(AC)と産業・航空機向け(HC)の二つに分かれる(下表参照)。 

 売上高の90%以上が他社へのOEM供給ゆえ、一般消費者の目に触れる機会は少ない。だが、自動車用ダンパーの世界シェアは約16%、建機用シリンダーの世界シェアは約40%に上っており、自動車、建機業界を支える大きな黒子企業である。