新国立工事で過労自殺、「重層下請け構造」が引き起こす悲劇当初案の白紙撤回をめぐる混乱も批判を呼んだが、混乱故の突貫工事によって、ついに犠牲者まで出てしまった

 悲劇の現場は、2020年開催の東京五輪のメーン会場だった──。

 現在急ピッチで工事が進む東京都新宿区の新国立競技場の建設現場で、地盤改良工事を手掛けていた土木専門工事会社の23歳の男性社員が、1カ月間で200時間近い残業を行い、今年3月の失踪後に自殺していた問題。男性の両親は、過重労働が自殺の原因だとして労災申請した。

 遺族の代理人である川人博弁護士や工事会社によると、男性は16年4月に技術職として入社した新入社員。同社の同僚4人と共にこの現場に配属され、工事に用いる機械の管理を担当していた。

 男性の残業時間は、失踪前の1カ月間で211時間56分に達していた。特別な場合の残業時間を月80時間と定めた、いわゆる「36協定」に違反した深刻なものだ。男性の両親の証言によると、今年1月末ごろ、重機を予定通り調達できず、翌2月に工期の遅れを取り戻そうとしていたとみられる。

 新国立競技場をめぐっては、当初計画された、開閉式の屋根を設ける案がコストの増加などで批判を浴びたため、15年7月に白紙撤回された。新たな計画は、構造上は当初案より簡易な工事となったが、それでもゼネコン業界では、工期の短さや人手不足を危ぶむ声が上がっていた。