東京都民の貴重な水源の一つである多摩川。その源流は、山梨県北都留郡小菅村の森の中にあるのをご存じだろうか。豊かな川を守るには、母なる源流の森を守らなければならない。小菅村は30年以上も前から、源流にこだわった村づくりに取り組み、自然豊かな森を守ってきた。折しも、明日8月11日は「山の日」。私たちの暮らしに直結する水源の森がある山についても考えてみたい。(ジャーナリスト 木原洋美)

子どもの頃の冒険
「最初の一滴」に会える場所

東京都民の「水源の森」の山を守る人々の情熱と信念『多摩川最初の一滴』 中村文明さん撮影

 夏休み――。川辺に住む子どもなら、一度はやってみたい冒険がある。それは、川の「最初の一滴」を自分の目で確かめるべく、自転車で水源を目指すことだ。だが残念ながら水源ははるかに遠く、険しい山の中。冒険は、日暮れとともに時間切れとなり、上流へと遡る想いは憧れのまま封印される。

 そんな挫折体験を持つ大人に教えたいのが多摩川源流「水干(みずひ)」。日本の河川では数少ない「最初の一滴」に出会える、日本昔話に登場しそうな場所だ。

 都民の水瓶である奥多摩湖から車でおよそ30分、曲がりくねった道を越えて、人口720人(2015年)の集落、山梨県北都留郡小菅村に到着する。なんと、多摩川の源流は山梨県。こんなことさえ、知っている人は少ないかもしれない。

 村に入ると多摩川は小菅川と名を変え、深い森の風景に溶け込む渓流となる。水源へは、これより徒歩で向かわなければならない。