多くの国で税制改革がとん挫する理由を行動経済学で読み解くPhoto:首相官邸HP

 米国・トランプ政権でも安倍政権でも、さらにはフランス・マクロン政権でも、公約した抜本的な税制改革はとん挫している。「究極の構造改革」と称される税制改革は、なぜ難しいのだろうか。

 筆者は2004年に米国プリンストン大学で、日本経済や税制を教えたが、その際、同大学で教鞭をとっていたノーベル賞学者カーネマン教授のランチミーティングや講演会にたびたび参加した。教授の考え方は、「プロスペクト理論」と呼ばれ、今はやりの行動経済学の走りだった。税制改革頓挫の理由を、行動経済学の観点から考えてみた。

得する層と損する層が生まれる
「損得」を直感的、短期的に考えがち

 カーネマン教授の講演は、クイズから始まり、それをわれわれの行動原理と結びつけて考えるという、興味深い内容で、心理学の成果を応用した講義・講演は、多くの学生から絶大な人気を集めていた。

 たとえば次のような具合だ。

  教授「あなたは、来週20ドルのショーを見に行きたいと思っている。ショーの直前に20ドルの現金を落としたらあなたはショーを見に行くのをやめますか」
 学生「やめません」
 教授「あなたが直前に20ドルのチケットを落としたとしたらどうしますか」
 学生「見に行くのをやめます。」
 教授「つまり、経済的には同じことでも、場面が異なると、人間は違う反応をするということですね」