日本の携帯産業は、独自の進化を遂げる“ガラパゴス化”に陥っている。業界全体で端末代金と通信料金を分離する「割賦販売方式」が定着したと思いきや、「一括」という名の投げ売り合戦が始まっているのだ。
“ガラパゴス化”という言葉がある。技術やサービスが国内のみで完結し、世界の趨勢から孤立して独自の進化を遂げている様を、南太平洋にある孤島になぞらえて揶揄したものだ。言うまでもなく、携帯電話業界はその筆頭である。
だが、携帯電話ショップや大手量販店に足を踏み入れると、“ガラパゴス化”どころか、もっとグロテスクな光景が目に飛び込んでくる。2007年の総務省の指導を通じて、業界全体で端末代金と通信料金を分離する割賦販売方式が定着したのかと思いきや、「一括」という名の“投げ売り合戦”が復活しているのである。
06年9月より割賦販売を始めていたソフトバンクモバイル(以下、ソフトバンク)は、端末の新規購入時もしくはMNP(番号ポータビリティ)による転入時に、特別割引「新スーパーボーナス」を適用して大幅な値引き販売を行なっていた。
その仕組みは、本来は割賦の分割払いで購入する端末を、店側が指定した型落ちの機種に限り、「一括払い」ならば格安で購入できるという買い方である。
その結果、07年に入ってから、「7円携帯」なるものが店頭にお目見えし、一部のユーザーのあいだで話題になった。その後、ユニバーサルサービス料金(全契約者がNTTに払う税金のようなもの)の改定で、現在では「6円携帯」が実現した。
「6円携帯」は、端末の支払いが終わっているので、毎月の支払いは基本料金と通信料金だけ。しかも、ユニバーサルサービス料金の6円を抜かすと、基本料金の「ホワイトプラン」の980円は「新スパボ」の特別割引で実質的に相殺されるし、割引が有効な24ヵ月間は通話が無料になる条件や時間帯を守り続ければ、2年間で144円しかかからない。
さらに、端末をもう1台購入して、計2台で「ホワイト家族24」に入る。そして、同一家族の扱いにすれば、日本全国で24時間通話が無料になるトランシーバーを入手したに等しくなる。
そもそも「一括」は、一部の大手量販店などで、店側の判断で行なう在庫処分のタイムセールのようなものだった。もちろん、ソフトバンクも事態を把握し、黙認している。「まず数を制する者が勝つ」というのが孫正義社長の一貫した考え。新規参入者としては、儲けを度外視してでも数の獲得を優先させたわけである。