かつて孫の懐刀だったがたもとを分かった、仁木勝雅氏である。

 仁木氏はソフトバンクが2005年に買収した英国通信大手の日本法人、ケーブル・アンド・ワイヤレスIDC出身。ソフトバンクでは投資企画部長として、06年の英ボーダフォン買収など、数々のM&Aを手掛けてきた。

 孫社長の無茶振りともいえる構想を、M&Aという結果へと堅実に落とし込んでいく仕事ぶりから、「孫さんの信頼が厚い人物」(ソフトバンク幹部)とされていた。

 ところが、14年に入社した元米グーグル最高経営幹部のニケシュ・アローラ氏が、孫社長の後継者候補としての地位を固めていく過程で、投資事業はアローラの担当へと移り、仁木氏のM&Aチームは解散させられてしまった。

 仁木氏は16年9月に会社を去り、地元・広島の総合スーパー、イズミの事業戦略部長の職に新天地を求めた。

 だが、仁木氏はわずか半年足らずの今年2月末にイズミを退職してしまった。理由は定かではないが、「想像と現実が違った」と周囲に漏らしていたという。

 そこにすかさずソフトバンクの青野史寛常務が「戻ってきたら面白いポジションがあるぞ」と声を掛け、呼び戻した。

 出戻りエースをトップに据えたAI新会社は、その人選から孫社長の肝いりのプロジェクトであることは確かである。来月にも正式発表される見通しだ。

1兆個の半導体から集まる
データで超知性が誕生する

「コンピューターの脳が人間の頭脳を上回る『シンギュラリティ』は、30年以内に必ず訪れる」

 ここ数年、孫社長はプレゼンテーションでシンギュラリティという言葉を好んで使う。

 アローラ氏への後継者のバトンタッチを撤回し、自ら社長を続ける決断を説明した際にも、「シンギュラリティの到来が迫り、情報革命はこれからが本番。やり残したことがあり、社長を続けたいと欲が出てきた」と述べている。