「コーヒースタンドで切り抜けろ」の真意
吉祥寺のダイヤ街で40年以上行列がとぎれないのは、極めて理想的な形で「7つのマーケティング・クリエーション」が機能している結果だということができるだろう。
ここに偶発性は、ほとんど関与しない。
「小ざさ」代表の稲垣篤子氏の実父・伊神照男氏は、
「もし、近くに百貨店などの大資本のライバルが出現したら、小ざさの業態を捨てて、コーヒースタンドで切り抜けろ」
と稲垣氏に言っていたそうだ。
僕は、この言葉に、伊神照男氏のアントレプレナーとしての真髄を見る。
命がけで創り上げた究極のコンテンツ「幻の羊羹」を捨ててまで、伊神氏は、組織の存続を重視した。
コーヒースタンドとは、当時はまだ街の中にほとんど存在しなかったドトールなどの業態のことだろう。
それは、「7つのマーケティング・クリエーション」の基盤となる「ストーリー」は、常に顧客主体で考えなければならないという姿勢の現れだろう。
重要なのは、提供側の意図ではなく、あくまで顧客のニーズである。
そして、事業家は、もし従来のビジネスの「ストーリー」が顧客のニーズに合わなくなれば、顧客のニーズに沿う形で、「ストーリー」を再構築すればいい。それには、業態の変化を伴う場合がある。こうした割り切りが「小ざさ」の本当の強さなのだろうと思う。
『殺し屋のマーケティング』においても、女子大生起業家の七海は、師匠の西城に、自ら起こした事業をたたみ、新たな事業の礎にするようにアドバイスされる。はたして、七海は起業家として割り切ることができるのか。
ぜひ、『殺し屋のマーケティング』を読んで確かめてほしい。